イオンシネマ車いす騒動、必要だった“合理的配慮”とは?欧米の映画館との大きな違いも
欧米では30年以上かけてインフラ整備
アメリカでは1990年にADA(Americans with Disabilities Act 障害を持つアメリカ人法)が施行されました。 障害者が雇用や公的サービスや公共施設の利用、交通機関において差別をしてはならないと定められたのです。設備が整っていなければ仕事もままなりませんから、これらがまとめて制定されるのは当然です。また商業施設も政府が定める基準に適合しなければいけません。ADAは、障害者のための特別な配慮ではなく、障害者と健常者の差別をなくす目的で作られています。 「そのため映画館もレストランもオフィスも、UDであることが当たり前で、そうでないものを建築すると、まず営業許可が下りません。それを作った設計士は免許剥奪の上、罰金刑という厳しい州もあります。こうして欧米では法整備のもと、30年以上かけて社会インフラをUDにしてきました」(関根さん)
アメリカの映画館で筆者が感じたこと
アメリカ在住で、かつてアクセシビリティを専門に仕事をしていた金子雅彦さんは「車いす席はどの映画館でも、たいてい一番いい場所に設置されている」と言います。 筆者はちょうど3月にアメリカに行っていたので、試しに映画館に行ってみました。会場ど真ん中の最良席が車いす席です。 この映画館ではすべてのスクリーンで車いすが入れました。 試しに受付の方に「車いすの観客が運んでくれと言ってきたらどうするか」と聞いてみました。すると、「自分は大学生のころ、車いすのクラスメートがいたので対応した経験があるからできる。言われたらやると思うけど、経験がなかったら怖いのでマネージャーに相談すると思う」とのことでした。 ちなみに、これまで車いすを担いでくれと言われたことはないかと聞いたところ、「ない」そうです。映画館は段差がなく、すべてのスクリーンに車いす席があるのだから、当たり前ですね。
多様性を受け入れる姿勢を
関根さんはこう続けます。 「どうしても移動や情報保障に問題が起きた場合は、個別に必要な配慮をするのが、合理的配慮です。インフラが充分に整っていれば、サービス側には過剰な負担がかかりません。もし困っているお客様がいればどうすればよりハッピーにすることができるか、考えるマインドが大事だよね、という議論ができるんです」 つまり日本では、中小企業ほど設備も整っていないのに合理的配慮を求められるという、厳しい状況になったと言えます。ハードが不十分なことはわかりました、ではソフト面はどうでしょうか。前出の金子さんはこんな体験談を話してくれました。 「以前、映画館で映画を見ていたとき、小声で話すことができず、大声で興奮している観客がいました。『大変そうだな~』なんて思っていたら、映画が終わった後にスタッフが『みなさんこちらからどうぞー』と自然に誘導していました。そうして『今日はちょっとお客様にトラブルがあって理想的な経験ではなかったかもしれません、ごめんなさい。お詫びにこちらのクーポンを差し上げますので、またの機会にお楽しみください』と各人にフリーチケットをくれたんです。そこまでしなくてもいいのにとは思いましたが、個人のせいにせずに多様性を受け入れる姿勢が素敵ですね」