syrup16g、peridots、tacicaの3バンドによるドラマー中畑大樹50歳の宴をレポート
syrup16gと、キーボードに河野圭。この4人がアンコールの最後に演奏した「Reborn」が本当に、本当に感動的だった。 syrup16gの作品の中でもとりわけ多くの人たちに愛されているこの曲は、お互いが歳をとり、そこで変わりながらも生きていくことについて唄っている。それは50歳の誕生日を迎えたドラマー・中畑大樹を祝う夜のクライマックスとして、あまりにもふさわしい歌だった。 【全ての写真】syrup16g、peridots、tacicaが出演した「中畑大樹50祭」(全21枚) 今夜のO-EASTは、中畑大樹という人の空気感がそのまま流れているかのような場になっていた。入口には中畑のために届けられた花の数々。フロア内に流れる音楽は、VOLA & THE ORIENTAL MACHINE、杉本恭一、北出菜奈、チリヌルヲワカ、長瀬智也とのKode Talkersという、彼がドラマーとして関わってきたバンドやアーティストたちの曲。そしてステージの後ろの幕に大きく浮かび上がっているのは、このイベントのために中畑が描いたイラストだ。それは毒もユーモアもあるようで、しかしそのどっちにも着地していない感じがちょっと中畑らしい気がした。 そもそも中畑大樹という人は廻りの人をキズつけるようなことを言ったり、行動に表したりはしない。その場にいる人たちすべてを尊重し、自分が出すぎるようなことは決してしない性格なのだ。もちろん自分を飾りもしないし、気取らない。周りに気を配る。こうしたパーソナリティは、タイトでムダのないビートを叩き出す、彼のドラミングに通じているところがあると思う。 18時半の開演時、その中畑は舞台に現れ、あいさつをした。「こんばんは。今日来てくださって、ありがとうございます。今日ここでずっとドラム叩きます、中畑大樹です。よろしくお願いします」。ていねいなあいさつだった。ソールドアウトの会場は、自分が主宰するこの宴を楽しみにして来たオーディエンスばかりなのに、彼はこう言うのだ。 そして客席に向かって聞きたい事がふたつあると言った。「ちょっと答えづらい質問だと思うので、みなさん目をつむっていただいて。わかんないように、そーっと挙手をしてもらいたいです。まず、ひとつめの質問。ぶっちゃけ、中畑大樹ってあの人なんだ? っていう人!」。 かすかな笑いが起こる会場で、手を挙げた人は何人いただろうか(見れないので不明)。続いて、もう一問。「僕、今日で50歳になるんですけど、自分もちょうど50歳だという方!」。さらに微妙な質問で、これは数人は手が挙がったと思う。「手を挙げていただいた方。私は忘れません!」。 この夜はこんなふうに、ゆるい笑いの中で始まった。 最初に登場したperidotsは、マネージメントが同じだったこともあり、syrup16gとは付き合いの長いバンドである。今夜はメガネ姿のタカハシコウキがあの美しい声を、時おりファルセットも交えながら響かせていく。そのビートを担っているのは中畑で、バンドメンバーになって10年になる。タカハシは3曲目の「エチュード」のあとに後ろに視線をやり、「中畑大樹!」と紹介。それに中畑は「紹介してくれてありがとう。さっき(自分を)知らない人もいたみたいだから、良かった」と笑って返す。 そしてタカハシは思い出を話しはじめた。「大樹ちゃんとも長い付き合いになりますけど、初めて会った時はギンギンのサングラスをかけてたんです。あの時は<絶対に友達になれる人じゃないな>と思ってたんですけど、こんなに仲良くなるとは思ってませんでした。ありがとうございます」。この話の時に中畑はドラムセットを離れ、タカハシのすぐそばで話を聞いていた。その雰囲気が、どこかかわいい。 後半のperidotsは「リアカー」(この後に出番を待つtacicaの猪狩翔一もカバーしているという曲)から。ここからはパフォーマンス中の中畑に照明が当てられるシーンがあったり、彼を中心にしながらセッション的な展開があったりと、演奏はより白熱。そしてタカハシは合間に「ありがとう! 中畑大樹!」と彼にメッセージを送った。peridotsの現在形と、タカハシから中畑への思いが感じられる時間だった。 続いての登場のtacicaは、初期のナンバー「鼈甲の手」から始まるセットリスト。思えば彼らも2000年代からバンド・シーンで戦ってきた存在で、中畑が関わる今夜の3バンドは、あの時代からロックに親しんできたファンであれば気持ちが高ぶる顔合わせでもあったはずだ。序盤、猪狩翔一は「中畑さん、誕生日おめでとうございます。今日は僕ら史上一番カッコいい中畑大樹を見せられるように頑張ります」と言って、「アロン」に突入。高揚感の中、中畑の激しいドラミングが興奮をさらに高める場面があった。 セットの終盤で猪狩は、中畑が自分たちのライブで叩きはじめたのが結成10周年の頃だったと回想。そして「僕らはめちゃくちゃ中畑さん大好きで、みんなも中畑さん大好きなんだろうなと思ったら、今日は最高の日だなと思いました。そして今日僕らがここで演奏できるのも、めちゃくちゃ光栄です」、さらに中畑には「60歳(の記念ライブ)も、ぜひ呼んでください」と告げた。そのたびに会場中から拍手が起こり、そのたびに中畑はうれしそうな表情を見せた。