ISの性奴隷にされた女性たちが証言する、想像を絶する「地獄」
2014年から2019年にかけて、イラクとシリアを支配していた過激派組織、IS(いわゆる「イスラム国」)。初代「カリフ」の死から5年経ち、アラブ圏でこのたび、ISに「奴隷」として扱われた女性たちに関するドキュメンタリーが放送され、注目を集めている。ドキュメンタリーで語られたあまりにもつらい証言を、仏「ル・ポワン」誌がまとめた。 【画像】アル=バグダディは2019年に米国の作戦により殺害された 法、その一。「いかなる女も、配偶者あるいは所有物、召使いでないなら、性交は合法でない」 法、その二。「女が召使いや奴隷になるのは戦争を通じてである」 法、その三。「ジハードで戦った男が女性捕虜を手に入れるのは、司令官から与えられたときか、買ったときである」 いまから10世紀前の征服活動のときに書かれたこの中世の文章には、戦利品として獲得した性奴隷の正しい取り扱い方について、もっと具体的な記述もある。たとえば性奴隷の「利用」開始時期は、月経を1回見送ってからだとされている。獲得した性奴隷が妊娠している場合は、出産後だ。いまから見れば鬼畜の所業だが、これがかつてのイスラム帝国における「宗教的な立場から出された見解」だった。 IS(いわゆる「イスラム国」)がイラクとシリアに支配領域を持っていた2014年から2019年までの時期、その支配領域では性奴隷の拉致と酷使が横行したが、それを正当化する拠り所になっていたのが、この「見解」だった。性奴隷にされた人の多くはヤジディ教徒の女性たちだった。 サウジアラビアの国際テレビ局「アルアラビーヤ」(ムスリム同胞団寄りのアルジャジーラとは競合の関係にあるテレビ局)が2024年2月、前代未聞のインタビューを放送した。番組に登場したアスマという女性は、ISの最高指導者である「カリフ」を自称していたアブ・バクル・アル=バグダディ(1971~2019年)の第一夫人だった。 そこで語られたのは、カリフのハーレムの実態や性奴隷の売買についての話だった。ソフトな言葉遣いでそうした話が語られたのは、第一夫人の打算によるものなのか、あるいは不安によるものなのかはわからない。 アル=バグダディの第一夫人は「自分たちが知っていたことは、ほんのわずかだった」という言葉を何度も口にして、自分の直接的な責任を否定することも多かった。彼女が結婚したのは1999年。夫のアル=バグダディが2014年6月、イラク北西部の都市モスルのモスクでカリフ制国家の建国と自身のカリフ即位を宣言するずっと前である。 もっとも、実際に何が起きていたのかを把握するには、被害者たちの声が必要だった。親族に買い戻された人、逃げ出すのに成功した人、空爆や人身売買、悪夢のような記憶を生き延びた人たちの証言が必要だった。 スクープの数週間後、アルアラビーヤは、それぞれ52分の番組をさらに2本放送した。番組の内容は、「サバヤ」として使われたヤジディ教徒の生還者数名の衝撃的なインタビューだった。サバヤとは、西洋諸国ではほとんど知られていない語句だが、「性奴隷」と翻訳すべきものだ。戦利品、所有物、物、奴隷、召使いといった意味合いもある。 イラク北西部のニナワ県は古くからヤジディ教徒の拠点だった。この県内に位置し、シリアとの国境に近い都市シンジャールがISの手に落ちたとき、ヤジディ教徒の女性・少女数千人に「サバヤ」になる運命が降りかかった。 放送された2本のドキュメンタリー番組は、見るのがつらい場面も多々あったが、人身売買から生還を遂げた女性たちが経験した地獄を垣間見させるものだった。