「金融システムレポート」から読み解く日銀の真意とは?
国内外の金融市場の動向やリスクなどを分析する日銀の「金融システムレポート」。ここから読み解けるメッセージについて、第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。
「マイナス金利」政策は継続か
日銀が半年に一度まとめる金融システムレポート(FSR)が4月17日に発表されました。「マイナス金利」導入以降、金融機関収益の圧迫を通じた副作用が問題視されるなかで、このFSRを経由して発せられるメッセージが注目されています。というのも、金融緩和の副作用が日本経済に予期せぬ悪影響を与えると日銀が判断した場合、まずはFSRで副作用を軽減する策の必要性を訴え、その上で金融政策の調整を講じると考えられるためです。 そうした観点からFSRが発した真意を推察すると、今回の内容はこれまでと同様、現行の金融緩和が長期にわたって継続することを示唆するものでした。つまり、景気刺激策としてのマイナス金利深掘りもなければ、副作用軽減策としての政策金利調整(≒利上げ)もしないというメッセージです。
低金利でも欧州の銀行は収益確保
114ページに及ぶ分析では、日銀の低金利政策が金融機関収益(特に地銀)に下押し圧力をかけていることを認めた一方、金融機関の収益力低下の原因は低金利環境のみではなく、ビジネスモデルが適応できていない部分があるとの見解が示されています。 これについて日銀は、同じくマイナス金利環境にある欧州の金融機関(ユーロ圏、スイス、スウェーデン)との比較を示しています。比較分析では、まず邦銀の収益力低下が欧州に比べて著しいことを指摘した上で、次にその原因として非資金利益比率の低さに言及しています。 「資金利益」とは主に、預金(短期金利)で集めたおカネを貸出(長期金利)に回して稼いだ利鞘のことを指します。これは伝統的な銀行のビジネスモデルですが、世界的な低金利によってこのモデルは通用しにくくなっています。そこで、そうした困難に直面した欧州の銀行は手数料収入を多様化することで、非資金利益比率(対業務粗利益)を40~60%程度まで高め、資金利益(貸出利鞘など)に依存するビジネスモデルから脱却しました。 つまり、欧州の金融機関は安定した手数料収入を着実に積み上げ、自らの努力で金融緩和の副作用を和らげているということです。他方、邦銀の非資金利益比率(同)は10%強に留まっているため、金利低下による収益圧迫がきつくなると指摘しています。最近はATM手数料を引き上げる動きなど、手数料収入を増やす取り組みが一部にみられるものの、それでも欧州の銀行に比べると、邦銀はまだ無料のサービスが多いということでしょう。 日銀がこの分析を示した背景は「低金利で稼ぎにくいなら、政策金利の引き上げを期待するのではなく、欧州の銀行のように手数料収入を増やすなど、自らの工夫によって収益を確保して下さい」というメッセージを送る意図があったと筆者は考えています。
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