世界に波紋。メドベージェワのロシアを離れるコーチ変更は成功するのか?
平昌五輪でのメドベージェワはフリーの点数は、同門の15歳、アリーナ・ザギトワと同じだったが、合計得点で1.31点及ばずにザギトワが金メダル、彼女は銀メダルに終わっていた。のちにトゥトベリーゼ・コーチが暴露した話によると、五輪会場を去る際、メドベージェワは同コーチに「ザギトワは、あと1年はジュニアだったはずが、なぜ?」と不満を投げかけ、「私は誰にでも平等にチャンスを与える」と返す“行き違い”があったという。 メドベージェワとザギトワの2人は、同じ「サンボ70」というロシアの施設で幼年期からトゥトベリーゼ・コーチの厳しい英才教育を受けてきた。だが、どうしても複数のトップ選手が、同じコーチの指導を受けるとなると、指導時間や、その温度差の違いなど様々な問題が発生して、アスリート特有の「なぜ私だけを見てくれないのか」という嫉妬などの微妙な感情が飛び交う。しかも、同傘下には、女子で4回転ルッツを初めて成功したアレクサンドラ・トゥルソワ(13)や、アリョーナ・コストルナヤ(14)、アナスタシア・タラカノワ(13)らの次世代の逸材が、目白押し。北京五輪で22歳になるメドベージェワにしてみれば、不満に加えて焦りもあったのかもしれない。 右足中足骨の骨折を無理して五輪に出場していたメドベージェワは、五輪後の世界選手権は欠場、休養期間をつくった。その間に考えが煮詰まったのだろう。4月22に韓国でのアイスショーに出演した際、そこでオーサー・コーチと面会、指導を正式に依頼してオーサー・コーチも了承した。その際、オーサー・コーチも、移籍理由を聞かなかったし、メドベージェワも多くを語らなかったという。
前出の中庭氏は、今回の移籍騒動と今後の可能性をこんな風に見ている。 「難しい選択となったことは間違いありません。彼女はこれまでの慣れ親しんだ環境より、新しい環境でのチャレンジを選びました。彼女は多くを語りませんが、これまでの彼女の色々な人間性や、トップアスリートとしての面を考えると、“今までとは違う新しい自分になりたい”という向上心が非常に強いと思います。それが一番の決め手になったのではないでしょうか。 コーチが変われば、今まで以上に新しい学びや発見ができます。長年にわたり培われた彼女の持つ力との融合により、誰もが想像できないメドベージェワになると思います。また振り付け師も変わることにより、新しいプログラムと振り付けで、これまでと違ったメドベージェワの一面を見ることができると思います」 振り付けは、キム・ヨナの振り付けを担当していたデビッド・ウィルソン氏が担当するという。 アスリートは主体性が芽生えたとき成長すると言われている。一方で徹底した管理の下、“やらされる練習環境”にいて考えることをしなかったアスリートは環境が変わったときに戸惑い、伸び悩むこともよくある。そういう意味では、“解放”を求めたメドベージェワの挑戦は、一つの賭けになるだろう。 メドベージェワは、オーサー・コーチの指導を仰ぐことを伝える公式文に「(練習拠点とコーチを変える理由は)新しい可能性と別の練習方法を試したいという理由と、ロシアをもっと高いレベルに引き上げ続けるためです。時がたてば、真面目に努力して練習を続けることが、私とトゥトベリーゼ・コーチの両方にとって、これが唯一の選択肢だったと理解される日が来ると信じております」と書き込んだ。 今後も「サンボ70」の所属選手という立場で試合出場をしていくというが、ロシアのフィギュア界からは、11年にわたる師弟関係に終止符を打ち、ライバル国のコーチに変更したメドベージェワの行為を“裏切り”と見て、厳しい逆風が吹いている。メドベージェワは、今月下旬に来日、日本でのアイスショーに数試合出場した後、6月からオーサー・コーチのいるカナダの「クリケットクラブ」に合流予定だという。