貴方のからだはウイルスまみれ! 世界総人口の約5万倍、380兆個もウジャウジャいるウイルスといっしょに暮らしている
ウイルスというと病気の原因というイメージが強い。しかし、わたしたちの体にはつねにウイルスが「同居」していることをご存じだろうか。ウイルスは必ずしも「敵」ではなく、私たちによい影響を与えている可能性もあるのである。 【画像】古代エジプト王のミイラの顔に天然痘ウイルスの痕跡が! 私たちがいかにウイルスに囲まれて生きているか、その驚愕の実態を見てみよう。 【※本記事は、宮坂昌之・定岡知彦『ウイルスはそこにいる』(4月18日発売)から抜粋・編集したものです。】
ウイルスとともに生きる
読者の多くは、ウイルスとは病気を起こす厄介者と思っているかもしれないが、実際は、ヒトに感染して病気を起こすようなウイルスは、全体から見るとほんの一部だ。つまり、ほとんどのウイルスは悪さをせずに、「近所そこらにはびこっている」のである、そこに生物がいる限り。 地球上に存在するウイルスの種類は1億以上といわれ、いたるところにとんでもない数のウイルスが存在する。たとえば、湖や川の水の中には1ミリリットルあたり億(10の8乗)のオーダーのウイルスがいる。海水の中でも100万(10の6乗)から1000万(10の7乗)のオーダーのウイルスが存在し、海洋全体ではなんと10の30乗個というとんでもない数のウイルス粒子が存在する。「海水にウイルスがわんさかいるなんて……もう海水浴なんてできない」と思うかもしれないが、ほとんどのウイルスはヒトには害を与えない。 つまり、われわれの身の回りには、人畜に無害なウイルスが多数存在していて、病原性を持つような「負」の影響を与えるようなものはほんの一部なのである。それどころか、多くのウイルスはわれわれ人間や環境に「正」の影響を与えている可能性すらある。このことに関して、前出の山内一也は、「われわれは、ウイルスに囲まれ、ウイルスとともに生きている」(『ウイルスの意味論』〈みすず書房〉)と表現している。 健康な人のからだの中にも多くのウイルスが存在する。つまり、人体には正常状態で多数のウイルスがいて、後で述べるように、その多くは生体に生理的状態で存在する細菌叢(マイクロバイオーム:microbiome)と密接な関連を持ちながら存在する。このウイルスの集合体のことをヴァイローム(virome:ウイルス叢)とよぶ(ここで、オーム〈ome〉とはギリシャ語で総体を意味する接尾辞。つまり、マイクロバイオーム、ヴァイロームとはそれぞれ、細菌情報の総体、ウイルス情報の総体を指す)。 2020年12月号の『サイエンティフィック・アメリカン』誌に「ウイルスはわれわれに恩恵を与えることもあれば害を及ぼすこともある」という題名で、正常人には380兆個ものウイルスからなるヴァイロームが存在することが紹介されている。 380兆個といわれてもピンとこないかもしれないが、これは体内に存在する細菌の約10倍、世界総人口の約5万倍にものぼる数だ。われわれのからだの表面や内部には、膨大な数の「同居人」がひしめき合っている。 前述したように、一部のウイルスは病気を起こすが、大半は病気を起こすこともなく、単に共存しているだけだ。 伝統的な生物学では、われわれのからだは主にヒトの細胞からできていて、時にそこに微生物が侵入してくると考えられていたが、最近の研究結果はそうではなくて、われわれのからだは細胞、細菌、真菌、そして最も多数を占めるウイルスがつねに同居していることを示している。最新のデータでは、人体内の生体物質の半分ぐらいは実は外来種由来でヒト由来ではないといわれる。 つまり、病気を発症していない健常人にも種々のウイルスが棲みついている。言い換えると、われわれは病気の症状を示すことなしに「ウイルス感染」しているということだ。生理的状態で体内に存在するマイクロバイオームやヴァイロームは、後述のごとく、ヒトのからだの機能に必須であり、人体はこれらを含めた形で一つのスーパーオーガニズム(超生物体)として機能している。 * 私たちのからだは一見きれいに見えても実はウイルスまみれだった! 宮坂昌之・定岡知彦『ウイルスはそこにいる』(4月18日発売)は、免疫学者とウイルス学者がタッグを組んで生命科学最大のフロンティアを一望します!
宮坂 昌之/定岡 知彦