「京急」と「東急」のライバル同士が手を組んだ! 自動運転バスの実証実験で目指す未来の姿とは
バス業界が抱える課題にアプローチ
2024年5月24日から6月6日までの14日間、横浜市金沢区の能見台地区、同青葉区のすすき野地区、川崎市麻生区の虹ヶ丘地区の3カ所で、かわいらしいバスが実験的に運行された。主体は京浜急行バス、東急バス、東急(東急グループの事業持株会社)の3社である。これは複数エリアで複数の事業者が同時に、小型モビリティによる自動運転の実証実験を、遠隔監視方式で行なうというものであった。各エリアに共通した自動運転に伴う移動の課題やニーズのほか、エリアごとの課題検証などを行なうことに狙いがある。 【画像】60年前の激レアバス! バスマニア感涙の旭川電気軌道がレストアした「MR430」の画像を見る 今回の実験は「自動運転レベル2」に関する内容だ。自動運転には5段階のレベルがあり、「自動運転レベル2」はその第2段階にあたる。今回使用された車両は、部分的に運転が自動化されたものを使用して、アクセルとブレーキ操作による前後の加速や減速の制御と、ハンドル操作による左右の制御の両方を、システムが担うといった形で行なわれた。要するに、ドライバーが乗務して運転の監視をすることが前提となっているわけだ。 トヨタがオリンピックの選手村で行なった実証実験や、ウーブンシティで行おうとしているものはさらに高度な内容だが、閉鎖空間なので限られた人しか利用できない。しかし、今回は予約をすることで一般の人たちが利用できるようにした。いわば、市民参加型の自動運転実証実験だったのである。 具体的なシステムの構成は、遠隔監視設備を京急グループ本社ビル(横浜市西区)に設置し、ひとりの遠隔監視者が異なるエリア(先述の3地域)で運行する2社2台の自動運転バスの運行管理を担当するというもの。ここで得られた結果を基に、「遠隔監視×自動運転」技術を安全性向上・運転業務の負担軽減に繋げることで、不足が懸念されているバスドライバーの働き方改革など、バス業界が抱える課題に対して取り組むのだという。
京急と東急のタッグが注目を集めた
ここで使用された「遠隔監視システム」は、東京にあるIT企業ソリトンシステムズが開発したものだ。この企業ではこれまで、自動運転に必須となる遠隔監視機能をはじめ、自動運転の運用効率化を図るための遠隔による支援システムについて実用化を進めてきた。遠隔監視機能は、今後進化する自動運転(レベル4以上では必須)には必要不可欠であり、その開発実績が今回の採用につながったのだという。 この実証実験が市民の間で注目された理由のひとつは、一見ライバルと思える大手鉄道事業者傘下のバス会社がタッグを組んだことだ。しかし、京急(本線)と東急(田園都市線・東横線)はともに京浜間輸送を担う大手事業者だが、営業エリアが完全に被るというわけではない。これはバス事業も同じことで、ある程度住みわけがなされている。 しかも、陸上交通事業調整法(戦前の法律で、陸上公共交通の総合的な調整を政策的に行なうことを目的とした)下では、「大東急」として一時期合併していたこともあったので、相性も悪くなかったのではないだろうか。トラック輸送でも「共同配送」が叫ばれるぐらいだから、決して不自然なことではない。 結果的に、この実験は無事に終了したようだ。これからは、さらに異なる実証実験などを重ねて、自動運転、共同運行への道筋がつけられるのであろう。今回実験が行なわれたエリアは区画整備が行き届いた、いわゆるバスが走りやすい場所だ。しかし、バスの運行経路には、歩道はなくすれ違いすら困難な場所も多数存在する。そのようなところでは、自動運転も容易ではないだろう。 さらに、高齢者や体が不自由な人へのフォローをどうするかといった問題も残る。いまのところ、自動運転は2024年問題など経営側の視点で進んでいる面が多いように思われる。SDGsにあるように、すべての人が幸せに暮らしていくためのシステムになることを期待したいものだ。
トラック魂編集部