役所広司さん パリで仏映画への思い語る 故郷・長崎原爆の記憶「次の世代が引き継いで」
【パリ=三井美奈】日本を代表する俳優、役所広司さん(68)がパリの現代日本映画祭に参加し、記者会見した。役所さんは、カンヌ国際映画祭での受賞を通じてフランスとのつながりが深く、仏映画への思いを語った。 【写真】KINOTAYO映画祭であいさつする役所広司さん 「俳優になって初めて経験した映画祭だった。映画ファンがこんなにいる。この熱狂は何だろう、と思った」。役所さんは13日、1997年のカンヌ国際映画祭の思い出を振り返った。 この映画祭で主演作「うなぎ」は最高賞パルムドールを受賞。昨年には映画「PERFECT DAYS」でトイレ清掃員を演じ、男優賞を獲得した。今回参加したKINOTAYO(キノタヨ)映画祭は「役所広司特集」が企画され、この2作を含めて主演作5本が上映された。 仏映画については「子供のころから好きだった。大人っぽい世界をのぞき見する感じがした」という。「カリカリのパンにジャムとバターをつけてサクサクと食べたり、カフェを飲んだり。ファッションを見て『どうしてこんなに格好いいのか』と思っていました」。好きな仏映画は「禁じられた遊び」(1952年)で、「何度も見て、見るたびに感動した」と思いを込めた。 13日には、故郷・長崎県諫早市を舞台とする朗読劇「赤とんぼ」の上映に立ち会った。原爆や特攻隊の記憶を伝える作品で、パリで活躍する特殊メーキャップアーティスト、レイコ・クルック西岡さんが諫早市で過ごした少女期の体験をもとに監督・出演した。 映画祭さなかの10日には、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)がノーベル平和賞を受賞しており、役所さんは「もう次の世代が(歴史の記憶を)引き継いでいかねばならない。この思いはレイコさんも同じだと思う」と述べた。少年時代を回想し、「原爆については、『被ばく列車』というのがあった。被ばくされた方々やご遺体が諫早に運ばれてきて、おばが手伝いに行ったと母から聞いた」と語った。 日本映画については「長い間、国内だけで採算が取れたので、世界に向けて作ってこなかった。韓国映画は世界を見ている。力強さで日本は後れをとった」と指摘した。外国の資本や人材を呼び込み、可能性を広げることに期待感を示した。 キノタヨ映画祭は2006年に始まったフランス最大の現代日本映画祭。今年は14日まで3週間開かれ、底辺から抜け出そうともがく女性と刑事の交流を描いた入江悠監督作品「あんのこと」が観客投票により、最高賞ソレイユ・ドール(金の太陽)に選ばれた。