ウクライナがシリアに秋波 露の影響力削ぐ狙い 無人機や食料を支援
ウクライナが、親ロシアのアサド政権が崩壊したシリアとの関係強化に乗り出している。アサド政権転覆を支援するために反体制派側へ無人機を送っていたとされ、最近は人道支援としてシリアに小麦粉を発送した。敵対するロシアの影響力をそぐ狙いがあるとみられる。ただ、シリアの暫定政権はロシアにも一定の配慮を見せており、駆け引きが激しくなっている。 【写真特集】アサド政権が崩壊したシリア 怒りや悲しみを抱えて 「我が国はシリアの安定と互恵的な関係に関心があり、支援の用意がある」。ウクライナのシビハ外相は昨年12月30日、シリアの首都ダマスカスを訪問し、暫定政権のシェイバニ外相と会談してこう強調した。シェイバニ氏も両国間で「戦略的パートナーシップが築かれるだろう」と応じた。 シビハ氏は、ロシアによるウクライナ侵攻とシリア内戦介入を念頭に「シリアとウクライナの人々は同じ経験をしてきた」とも主張。「ロシアを排除すれば、シリアだけでなく中東やアフリカの安定にもつながるだろう」と述べ、ロシアと距離を置くよう忠告した。 親露のアサド政権は、ウクライナ情勢でもロシア支持を鮮明にしていた。ロシアが2022年2月、ウクライナ東部の親露派支配地域の「独立」を承認すると、この年の6月に追従。これを受け、ウクライナはシリアとの断交を宣言した。 ウクライナは、シリアで24年11月下旬に始まった反体制派の大規模攻勢には布石を打っていた模様だ。米紙ワシントン・ポストは12月10日、ウクライナが攻勢の約4~5週間前に反体制派へ無人機約150機と操縦士約20人を送っていたと報じた。アサド政権の崩壊後も、ゼレンスキー大統領は12月27日に、国連世界食糧計画(WFP)と協力して500トンのウクライナ産小麦粉をシリアへ発送したと公表し、接近を図る。 対するロシアのプーチン政権にとって、焦点はシリア西部にある二つの露軍の基地を維持できるかどうかだ。ロシアは15年、シリア内戦に軍事介入し、劣勢だったアサド政権の戦況を好転させた。介入を機に、ソ連時代から露海軍が補給拠点としていたシリア西部タルトスに加え、西部のフメイミム空軍基地を49年間使用できる租借権を得た。 シリア国内のロシアの軍事基地は中東だけでなく、対アフリカ戦略の拠点となっている。ロシアの民間軍事会社「ワグネル」やその後継組織の部隊をマリやリビアなどに送る際も利用してきたとされる。 ラブロフ露外相は12月29日、ロシア通信に対して、基地の維持や使用条件などはシリアの新政権と交渉することになると語った。 シリアの暫定政権を主導する旧反体制派組織「ハヤト・タハリール・シャム」のジャウラニ(本名アフマド・シャラア)指導者は同じ29日、ロシアを「世界で2番目の強国」と表現し、両国間に戦略的な利益があると言及。「両国の関係を損なう形でのロシアの撤退は望んでいない」とも語り、プーチン政権に配慮する姿勢を見せている。【エルサレム松岡大地】