Y.S.C.C.横浜・田村佳翔が最後に過ごした幸せなアディショナルタイム【人生に刻むラストゲーム|Fリーグ 】
チームのスパイスとなり、流れを変えるキーマンに
迎えた2023-2024シーズン、田村は新天地で素晴らしい輝きを放った。まず目を見張ったのが、ピッチ外も含めた新チームへの順応の早さだった。加入1年目とは思えないほどチームに溶け込み、気づけば押しも押されもせぬムードメーカーに。第2節の試合後、田村本人も「すでに若い奴らからクソほどイジられてる。いや、お前ら早くないか」と訴えたが、そんなキャラクターもチームの雰囲気作りに一役買った。 そして肝心のプレーの方でも、田村は確かな存在感を示していく。開幕戦の対ペスカドーラ町田戦で早速メンバー入りを果たすと、チーム最多5本のシュートを放ち、試合終盤には挨拶代わりの移籍後初ゴール。翌第2節の対湘南ベルマーレ戦でも2試合連続となるゴールを決めるなど、チームの開幕ダッシュに大きく貢献した。 長野時代はフィクソとしてチームの舵取りを担うことも多かったが、横浜では久々にアタッカーとして躍動。本来の思い切りの良さを取り戻した。鳥丸監督は、そんな田村のプレーを次のように評価した。 「選手の能力を表す円グラフがあったとしたら、決して綺麗な丸ではないんですよ(笑)。でも一方で、チームにスパイスを加えてくれる、RPGゲームで言えば補助魔法のような、試合の流れを変えてくれる選手でしたね。膠着状態を動かせたり、ワンプレーで会場の空気を変えられる力があった。それってある種の才能で、誰にでもできる仕事じゃないと思うし、彼が入って流れが変わった試合がいくつもありました。どのセット、どのメンバーともすぐにアジャストできましたし、そういったパーソナリティも含めて、うちのチームに来てくれたことを本当に感謝しています」(鳥丸太作監督) 田村佳翔という男は、不思議な神通力を持った選手だった。時として奇跡のような活躍を見せることがあり、それは鳥丸監督の言うようにある種の「才能」だったのだろう。 そんな田村自身のキャリアのなかでも、本人にとって忘れられない試合があるという。2013年12月28日、駒沢体育館で行われたその年の関東フットサルリーグ1部最終節の最終第4試合。当時田村が所属していたファイルフォックス府中は、その年を最後にFリーグに参入することが内定していたフウガすみだ(後のフウガドールすみだ)と対戦した。 すみだは当時、関東リーグで約2年半にわたり無敗を継続。「同じリーグに所属していながら雲の上の存在に見えた」というが、その試合で田村は2ゴールの大活躍。本人ですら「あの試合は何か降りてきていた。奇跡のようだった」と回顧するスーパーゴールを叩き込み、みごとチームを勝利に導いたのだ。この活躍が敵将・須賀雄大監督の目に留まり、翌年フウガドールすみだへ移籍。確かな実力に加え、持ち前の「引き」で夢のFリーグへの道まで切り拓いた。