『ナミビアの砂漠』山中瑶子監督×河合優実 運命的に出会った二人が生み出したもの【Director’s Interview Vol.429】
『あみこ』と共通するもの
Q:初監督作『あみこ』から短編やドラマを経て、今回の⻑編デビュー作となりましたが、本作には『あみこ』の空気みたいなものが残っている感じがしました。実際に完成した映画を観ていかがですか。 河合:完成した映画は大好きですが、山中さんの他の現場を見たことがないので、他の作品とはどのように作り方が違ったのかなと。今の質問を聞いて確かに気になりました。 山中:『あみこ』は友達や同年代の子たちと作ったので、自由度も高いし皆でいろいろ対等に出来た感じがありました。その感覚が今回は久しぶりにあったかもしれません。でも『あみこ』のときと大きく違うのは、当時はもうちょっと独裁的だったというか(笑)。めちゃくちゃ細かくて、全部自分で決める!みたいな感じでした。今回はもっと柔軟で自由になった感じはあります。 また、『あみこ』と『ナミビアの砂漠』の間の作品は「現場を回さなければ!」みたいな気持ちが強かったので、確かに空気は全然違うかもしれませんね。 Q:『魚座どうし』(19)では、冒頭からナメがあるドリーショット(横移動)から始まっていて、『あみこ』や『ナミビアの砂漠』とは全然アプローチが違って驚きました。 山中:確かに(笑)! 河合:この現場で珍しく(移動撮影用の)レールが出てきたときは「わぁ!レールだ!」みたいになりましたよね。 山中:なりましたねー(笑)。今回は機動力重視で手持ち撮影が多かったので、確かに「レールだ!」ってなりました(笑)。 Q:いろんな偶然が重なってこの作品が出来たように感じる一方で、山中監督の良さがこれでもかというぐらい出ていますよね。ご自身としてはどうですか。 山中:「めっちゃ運が良い」とは言われますね。今回もプロデューサーに言われました、「(運が良すぎて)怖い」って(笑)。今回はそういう偶然が全部良い方に作用していて、しかもそれが一つや二つではない。「何なんだ?」とは思っていました(笑)。 Q:原作モノからオリジナルへと企画を切り替えた、プロデューサーの英断がすごいなと思いました。それが見事に当たっています。 山中:それも今思えばラッキーなことですが、そのときは目の前のことに皆一生懸命だったから、正直、全体像があまり見えてなかったかなと。「この映画は、どういう映画になるんだ?」と、たぶん誰も分かっていなかった。それでも、「次に撮るシーンを全力で楽しむ!」という繰り返しで、楽しくやっていました。 河合:そうですね。それが不思議でしたし、面白かったです。 Q:『あみこ』は河合さんの人生を変えた作品だそうですが、念願の山中作品に出演できていかがでしたか。 河合:山中さんとお会いして、脚本が出来て、撮影が出来てと、一つずつ時間をかけた『ナミビアの砂漠』については色んなことを思っていますが、ふと俯瞰してみると、まさかこんなことになるとは当時の自分は思っていないだろうし、私も運が良いなと思いますね。全然別の未来もあったかもしれないし、そもそも仕事として成立してなかったかもしれない。本当に幸運なことだなと思っています。 Q:山中監督は河合さんとご一緒していかがでしたか。 山中:河合さんのことはこれまでスクリーン越しに観てきましたが、どこまで何が出来るのかというのはあんまり分からなくて、シンプルな話、側転は出来るのかな?とか(笑)。河合さんを当て書きで書いてみたはいいけれど、もしかしたらノリが全然違うかも?とかもあり得たわけですよね。でも本読みの時点で、座って、ただセリフを読むだけで、もう既にカナって感じだった。そのときの「うわぁ~、良かった~」というところから、もうずっとビックリしている感じです。 監督/脚本:山中瑶子 1997年生まれ、長野県出身。日本大学芸術学部中退。独学で制作した初監督作品『あみこ』がPFFアワード2017に入選。翌年、20歳で第68回ベルリン国際映画祭に史上最年少で招待され、同映画祭の長編映画監督の最年少記録を更新。香港、NYをはじめ10カ国以上で上映される。ポレポレ東中野で上映された際は、レイトショーの動員記録を作った。本格的長編第一作となる『ナミビアの砂漠』は第77回カンヌ国際映画祭 監督週間に出品され、女性監督として史上最年少となる国際映画批評家連盟賞を受賞した。監督作に山戸結希プロデュースによるオムニバス映画『21世紀の女の子』(18)の『回転てん子とどりーむ母ちゃん』、オリジナル脚本・監督を務めたテレビドラマ「おやすみまた向こう岸で」(19)、ndjcプログラムの『魚座どうし』(20)など。 河合優実 2000年生まれ、東京都出身。2021年出演『サマーフィルムにのって』『由宇子の天秤』での演技が高く評価され、第43回ヨコハマ映画祭<最優秀新人賞>、第35回高崎映画祭<最優秀新人俳優賞>、第95回キネマ旬報ベスト・テン<新人女優賞>、第64回ブルーリボン賞<新人賞>などを受賞。2022年には『ちょっと思い出しただけ』、『愛なのに』、『女子高生に殺されたい』、『冬薔薇』、『PLAN 75』、『百花』、『線は、僕を描く』、『ある男』など数多くの話題作に出演し、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの新進気鋭女優である。近年では『少女は卒業しない』(23)、『ひとりぼっちじゃない』(23)、『四月になれば彼女は』(24)、『あんのこと』(24)、劇場アニメ『ルックバック』(24)、ドラマでは「不適切にもほどがある!」(24/TBS) 、「RoOT / ルート」(24/TXほか)など話題作への出演が続いている。 取材・文: 香田史生 CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。 撮影:井上佐由紀 河合優実HM:上川 タカエ/Takae Kamikawa(mod’shair) 河合優実STY:杉本学子/Noriko Sugimoto 『ナミビアの砂漠』 9月6日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー 配給:ハピネットファントム・スタジオ ©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会
香田史生
【関連記事】
- 19歳の初監督作『あみこ』を提げベルリンから世界へ。山中瑶子監督の確信とは ~前編~【Director’s Interview Vol.10.1】
- 『愛に乱暴』森ガキ侑大監督 ワンシーン・ワンカットのフィルム撮影【Director’s Interview Vol.428】
- Netflixシリーズ「地面師たち」大根仁監督 意識したのは海外ドラマの“容赦のなさ”【Director’s Interview Vol.426】
- 『辰巳』小路紘史監督 自主制作の自由度がもたらすものとは【Director’s Interview Vol.424】
- 『1122 いいふうふ』監督:今泉力哉 & 脚本:今泉かおり 撮影中に家に電話して確認しました【Director’s Interview Vol.419】