NASA 小野雅裕氏が「これから人類は宇宙を目指す大航海時代に向かう」と断言するワケ
宇宙開発に関する刺激的なニュースが、連日報じられています。日米中印&民間企業による熾烈な月着陸レース、火星を目指すイーロン・マスクのSpaceXの巨大ロケットの打ち上げ……地球以外に生命が発見される「Xデー」も近いかもしれません。火星を疾走中のNASA火星ローバー(探査車)の開発や着陸地選定に携わり、4月には『新版 宇宙に命はあるのか 生命の起源と未来を求める旅』を上梓したNASAエンジニアの小野雅裕氏は、世界と日本の宇宙開発の状況をどのように見ているのでしょうか。インタビューは「(NASAと比較して)リスクをとる日本の宇宙開発がうらやましい」という意外な言葉から始まりました。 【詳細な図や写真】火星上のパーサヴィアランス(出典:NASA/JPL-Caltech)
リスクをとる日本、手堅いNASA、その理由
──2024年の宇宙開発は月着陸レースで幕を開けました。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の小型月着陸実証機 「SLIM」も1月17日、世界で4カ国目の月着陸に成功しました。小野さんは日本の宇宙開発の強みや課題をどのようにご覧になっていますか。 小野雅裕氏(以下、小野氏):SLIMの取り組みは素晴らしいと思います。月着陸直前に2つあるエンジンのノズルの1つが脱落するという大きなトラブルがあったにもかかわらず、ちゃんと2つの小型月面ロボットを放出しています。あれは非常にエンジニアリングを作りこんだ成果です。上空で予想外のことが起きた場合でも、必ずロボットを放出するように設計したのでしょうね。 そして月着陸した2機のロボットは、画像認識でSLIMにカメラを向けて撮影し、2機が全自動で連携して地球に画像を送ってきました。あそこまでの高度な自律化に挑戦できるのはうらやましいです。 実はNASAは手堅いところがある一方、ISAS(JAXA宇宙科学研究所)はリスクをとっています。 ──NASAが手堅くてJAXAがリスクを取っているというのは意外です。 小野氏:もちろんそれが結果的に大成功に至った例も、失敗に繋がってしまった例もあります。うまくいった最たる例が小惑星探査機「はやぶさ」です。技術実証ミッションで新技術が多く使われている中、小惑星のサンプルを世界で初めて持ち帰ったのは快挙です。逆にリスクをとる姿勢が裏目に出たのが、金星探査機「あかつき」でしょう。金星への軌道投入というクリティカルな場面で、セラミックスラスタという新技術を利用し裏目に出ました。コンサバティブなNASAなら、宇宙で実証されていない新技術をあそこでは採用しないでしょう。 ISASがリスクを取る理由のひとつはおそらく、予算が限られていて、打ち上げ機会が比較的少ないからだと想像します。少ない機会を補って世界に追いつき追い越そうとするために、失敗を恐れず新技術をどんどん入れていく。それがISASのカルチャーであり強みだと言えます。 ──JAXAの取り組みの課題は何でしょうか? 小野氏:これはNASAにも言えることですが、多くのミッションが単発で終わってしまうところです。たとえばSLIMは先述のとおり素晴らしい成果を残しましたが、後に続くミッションがなければその技術は失われてしまいます。とはいえ、限られた予算内で月以外にも行きたい場所は数多くあるので、なかなかミッションをシリーズ化するのも難しい。技術を民間にスピンオフすることはできないかと考えています。 リスクを取って培った技術を産業移転し役立てていくのは、政府機関の役割の1つだと思います。たとえば、民間のSpaceXのドラゴン宇宙船は、NASAの開発した技術がかなり使われています。