パレードの裏に思惑が...中国共産党がニューヨークでひそかに進める「工作」とは?
「全てを歓迎する」という嘘
ムイによれば、新たな投資家は深圳を拠点とする不動産企業の佳兆業集団の会長で、星島新聞集団の共同会長でもある郭英成(クオ・インチョン)だ。 彼と娘の郭曉婷(クオ・シアオティン)は、21年に星島新聞集団の株式28%超を取得。郭曉婷は親会社の共同CEOであると同時に、星島日報のアメリカ業務を統括している。 1年後には郭英成も郭曉婷も、保有株式の半分を香港の実業家カーソン・チョイ(蔡加赞)に売却したという。 同社の公式サイトや中国のメディアによれば、取締役7人のうち少なくとも5人は、中国共産党が進める影響力工作の「統一戦線」に関与する政治機関や社会組織に属している。 共同会長となったチョイは、中国人民政治協商会議のメンバー。取締役会の共同CEOであるジャーナリストの柴静(チャイ・チン)は、江蘇省人民政治協商会議のメンバー。そして郭英成は、統一戦線の組織である香港潮州商会の創設議長だ。 在ニューヨーク中国総領事館は公式サイトで公開している昨年のパレード報告書の中で、黄屏が人々に「団結を示し、憎しみや人種差別に抵抗し、尊重と友情、包括性と愛を共に推進してより良い未来を迎えるために立ち上がるよう呼びかけた」と書いている。 ベター・チャイナタウンUSAが発行した第3回パレードの参加申請用紙には、「AAPI文化遺産継承伝統月間を私たちと共に祝う全ての人を歓迎します!」と書かれている。 しかし本誌が調べたこの団体の総計400ページ近いメールや文書から見つかった記録には、「安全上の理由から、参加対象は政治的・宗教的に論争の火種にならない組織とする」と記されていた。 これらの文書には第1回のパレードに、韓国や日本、バングラデシュ、フィリピンなどアジア諸国の外交官が招待されたことが記されている。 だが1つだけ、重要な団体のメンバーが招かれていなかった。中国が自国領土だと主張する台湾の事実上の大使館、台北駐米経済文化代表処の外交官だ。 チベット系学生団体「自由チベットのための学生たち」の事務局長ペマ・ドマは「中国共産党はAAPIについて影響力のある役割を担おうとしている」と指摘。 彼女は今年のパレード前の取材に、参加しない意向を示していた。「アメリカで中国共産党支持者がチベット系や香港系の住民に暴力的な攻撃を行うのをこの目で見てきただけに、身の危険さえ感じる」と、ドマは語った。 20年6月に香港で国家安全維持法が施行されたことを受けて香港を逃れてきたフランシス・ホイは、「これは中国政府が私たちのコミュニティーを支配し、外国で政策課題を推進するのに便利な状況をつくるために行っているプロパガンダの一環だ」と主張した。 首都ワシントンを拠点に活動するフリーランスの研究者で、かつて中国国営メディアに勤務していたシャノン・バンサンは「文化的な多様性を祝うパレードのはずなのに、中国政府の方針に反対する団体が排除されている」と批判する。 「これは中国共産党とその支持者や協力者が、アメリカの各コミュニティーで議論を支配・形成するために行っているのと同じやり方だ」と、バンサンは言う。「彼らの目的は中国共産党に批判的な声を抑え込み、そのほかの全ての人との結び付きを強化することにある」
ディディ・キルステン・タトロウ(本誌米国版・国際問題担当)