温暖化対策の強力な切り札は海水からCO2を回収 日本にも最適のテクノロジー「DOC」とは
地球沸騰時代とも呼ばれる危機的な温暖化への切り札として注目を集める新技術とは
近年、温暖化対策の切り札としてよく耳にするようになったダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)は、大気中のCO2を回収する技術だ。その海洋版の研究も進んでおり、アメリカで実証実験が行われている。海水に溶け込んでいるCO2を直接回収するこの方法、ダイレクト・オーシャン・キャプチャー(DOC)もDAC同様、基本的にどこにでも設置できる。【岩澤里美】 【動画】地上で回収するDACプラントも続々稼働 <海水もCO2を吸収する> 陸の植物に吸収されるCO2をグリーンカーボンといい、藻などの海の植物やプランクトンといった海の生態系に吸収されるCO2はブルーカーボンと呼ばれる。地球の表面積の約7割を占める海洋は陸上よりCO2吸収量が多く貯蓄期間が長いため、最近、日本でも「ブルーカーボンは注目の温暖化対策だ」とよく話題に上がっている。 海の植物などがCO2を吸収するのは、当然ながら海水中にCO2があるため。海水は大気中のCO2を吸収しており、海面のCO2濃度が低くなれば大気中のCO2が吸収されやすくなる(海洋研究開発機構の研究報告より)。 この性質を利用したのがダイレクト・オーシャン・キャプチャーだ。海水からCO2を直接回収してCO2を含まない海水を海へ戻せば、海水は大気からまたCO2を吸収する。2021年にカリフォルニア工科大学で設立された「キャプチュラ」社は、この循環システムを実現させた。 <ロサンゼルス港で、年間100トンのCO2を回収中> キャプチュラは「わが社のシステムに必要なのは、海水と再生可能エネルギーの2つのみです」と説明する。海水をシステムに取り込み、電気透析技術を利用して海水に溶けた炭素をCO2の形に変換する。このCO2を膜と真空管で回収した後で海水を海へ戻す。添加物不要で、海水には化学物質は残らない。
日本でも進む、ダイレクト・オーシャン・キャプチャーの開発
同社の実験は順調に進んでいる。2022年夏に、年間1トンのCO2を回収する1号機が完成し、昨秋は、年間100トンのCO2を回収する2号機の稼働が始まった。2つともロサンゼルスに設置してある。1号機は2000時間以上の海水テストを完了しており、CO2 回収率は90%以上とのことだ(2023年10月の同社のレポートより)。 今夏にはカナダのケベック州に100トン回収規模のシステムを設置する。モントリオールのDAC企業とパートナーを組み、カナダをCO2除去の世界有数の拠点にしようと目指す。また今秋ノルウェーに設置するシステムはさらに規模が大きく、年間1000トンを回収できるという。 今後も実証実験を重ね、システムの効率化を図り、2026年までには最初の商業施設をスタートさせる見込み。キャプチュラのプロジェクトは、投資家たちから多額の資金を調達している。 <回収したCO2を海底に貯蔵> 抽出したCO2は、水素と合成することで化石燃料に代わる持続可能な燃料に使ったり、低炭素のプラスチックや建築材料に変えることが可能だ。キャプチュラでは、ノルウェーの新システムで回収するCO2を海底に永久保存する計画を発表している。その場所は北海の海底だ。 ここはキャプチュラが独自に確保した場所ではない。ノルウェーのノーザン・ライツ社が、DACなどで回収したCO2の貯留地として提供している。顧客が回収したCO2は液化した状態で、船でノーザン・ライツのCO2受け入れターミナルまで運ばれ、そこから北海の海底2600mの深さに貯留される。今年から始動し、年間のCO2貯留量は最大150万トンだという。キャプチュラが回収したCO2もこの手順で貯留されることになる。 <日本でも進む、ダイレクト・オーシャン・キャプチャーの開発> 最近、日本でも洋上風力発電を電源としたダイレクト・オーシャン・キャプチャーシステムが海洋研究開発機構により開発された。 海洋の二酸化炭素吸収に関しては、海洋のアルカリ性が弱まる海洋酸性化の問題が懸念されている。ダイレクト・オーシャン・キャプチャーも、これから世界で求められるのではないか。筆者はこの分野の専門家ではないが、DACは通常広い敷地が必要とされることを考えると、国土の狭い日本でのCO2回収は海でのDOCの方が導入しやすいだろうと思う。