トーマス号は根強い人気 復旧途上の大井川鉄道
わいわい言いながら、小さな橋、小さなトンネルをくぐって走ること約15キロ、7つの無人駅を通過して約30分で家山駅に到着した。本来はこの先、本線の終点である千頭駅までの約22キロも走るはずなのだが、今年の運行は残念ながらここまでだそうだ。理由は昨年9月の台風15号被害である。線路内に土砂が流入するなど被災個所が数十カ所に及び、ある程度は復旧したが、いまだに山間にかかる路線の大半で部分運休が続いているのだ。一般住民の生活もあるから、家山から千頭までは現在バスによる代行運転が続いている。復旧には概算で約20億円近くかかるとみられ、費用負担などの議論が始まっているところだ。 コースは短くなってしまったが、7両の客車がほぼ埋まるほど観光客が訪れているのだから、トーマス号の人気はなかなか根強い。 家山からの折り返しは、そのまま単線の線路を逆走することになる。なんだかんだで1時間以上を列車内で過ごし、沿線風景とガタンゴトンという懐かしい車輪の音を楽しむうちに、新金谷駅に戻った。最初はしゃいでいた孫も、吹き込む優しい風に居心地が良くなったようで、眠けをこらえているようだった。これで大人1人3500円。部分運休が続く経営も厳しい中、蒸気機関車を運行する手間を考えると納得の料金だ。
列車の窓から見つけた地元産品を販売する「KADODE OOIGAWA(かどで・おおいがわ)」に立ち寄った。実は新金谷から4つ目の門出(かどで)駅に直結した、緑茶を主役にしたフードテーマパークで、レストラン、カフェ、マルシェなどがそろう複合施設だ。新東名高速のインターに近く、2020年11月にオープンしたばかり。そもそも門出駅自体が同じタイミングで開設された新駅なのだという。海の幸も含めて買いたいものがなんでもそろう観光拠点にふさわしい施設だと思ったが、トーマス号はこの新駅に停車せず通過してしまう。アナウンスでも一切触れられなかったと思う。ちょっともったいないなと思った。初夏の日差しは傾いてもまぶしい。旅の終わりは、チョコレートとミルクの味が楽しい「石炭の煙色」のソフトクリームで締めくくった。 ☆共同通信・篠原啓一