阪神がFA中田翔の争奪戦から撤退へ
阪神の内部では「広島に4、5年育成が遅れている」が合言葉のようになっていて、鈴木誠也、田中広輔、菊池涼介、丸佳浩ら生え抜きの野手を育てた広島スタイルを手本に若手育成を加速させたい考えだ。球宴後早々と、金本監督に来季の続投を要請したのも「育てながら勝つ野球」を2年目もぶれずに推し進めている金本野球を支持したからである。積極的に若手を起用、外野では中谷、内野では大山が存在感を示している。 一方、休ませながら起用している福留の1年先延ばしにしていた一塁コンバート案が来季は再浮上してくるだろうし、36歳の鳥谷にしても、いずれ三塁から一塁へのコンバートを決断する日がくるだろう。そうなると、中田を獲得しても一塁のポジションが数年後にはだぶつくことになり、その余波で若手に競わせるべきポジションが減ってしまうことになる。競争は激しくなるが、生え抜きの若手を育成するためには、中田の獲得がむしろ障害になる可能性もあるのだ。 またロジャースの契約延長問題もある。彼を最低限の保証にもう一人、新外国人野手を獲得するとしても、どのポジションに狙いを絞るかも、中田を獲得すれば影響を与えることになる。 「投手は余るほど補強せよ」が、この世界の鉄則。資金力があるなら、投手のFA補強に対しては誰も異論はない。8月31日に日ハムが戦力外としたメンドーサをウェーバーで獲得した補強は大ヒットである。 しかし、投手、捕手を除き7つしかない野手のポジションは計画性を持って補強しなければ、かつての巨人のように名前ばかりが重たくなって、若手の活躍の場を奪うことになりかねない。チームの中から中田獲得へ撤退論が出てきたのも、そういう将来ビジョンを鑑みてのものだ。 実際、阪神ファンの間からも「中田はいらない、若手を育てよう」という声が聞かれる。 今季はWBC後遺症や怪我に苦しみ打率.210、16本塁打、62打点と低迷している中田が、周囲からのプレッシャーは日ハムの比ではない阪神で復活できなければ、決断したフロントも含めて強烈なバッシングを浴びることにもなりかねない。そういうリスクを考慮すると、撤退論が濃厚になっている理由もわからないでもない。いくら阪神に資金力があると言っても、よほどの説得力がなければ、阪神の取締役会も、10億を超えるような巨大契約で補強を進めることへの抵抗がある。 プロ野球がエンターテインメントビジネスである以上、戦力を整えるための投資は必要で、優勝争いに参加するための補強は続けるべきだだろう。それがファンに対する責務でもある。その意味でメンドーサ獲得はフロントが大きく評価されるべき仕事だったと思うが、これからの阪神にどういう補強が必要かは、じっくりと議論、検討しなければならないだろう。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)