“冬季うつ”に悩まされるあなたに寄り添う5曲
前回に引き続き季節ネタを引きずってしまいますが、底冷えのする寒さと、薄墨をふり撒いたような空に支配される、“冬季うつ”の時期がやってきました。温かい飲み物を口にしても、体を適度に動かしても、脳に蜘蛛の巣が張り巡らされているような陰鬱な気分は拭い切れず。こんな時のために音楽があるのですが、そういう場合に限って明るく前向きになれそうな曲の再生ボタンを押す活力すら起きないもの。ならば、座り込んで膝を抱えたり、ぬるま湯で満たされた浴槽から永遠に出られない無気力さが頭をループしたりする瞬間にぴったりの、優しく、柔らかい、羽毛にも似た黒で織り成された歌を聴きましょう。闇にも彩度と明度と輝度があるのだから。
「I Know It’s Over」(’86)/The Smiths
官能的な声で絶望を歌わせたら右に出る者はいないMorrisseyのヴォーカリストとしての凄絶さに度肝を抜く「I Know It’s Over」は、言わずと知れた名盤『The Queen Is Dead』の収録曲。無骨なベースラインが心音のように鳴り響いて死への誘惑に影を刻み、甘やかなギターのリフで天国とも地獄ともつかない異世界への光芒が放たれる、極上の失恋ソングだ。“たかが恋”と言い切ってしまえばそれまでだが、”自分が誰かに許容してもらえる存在であるならば、なぜこんなにもひとりぼっちなのだろう”というどうしようもない孤独感と閉塞感が、静かな海辺の波のように揺蕩う心を、どうやって笑い飛ばせばいい。承認欲求や自己肯定感といった4文字では計り知れない、底なしの穴で浮き沈みを繰り返す一曲。
「Street in the Darkness」(’84)/THE ROOSTERZ
ザ・ルースターズのサブスク解禁を祝して、“THE ROOSTERZ”名義で発表されたアルバム『Φ PHY』から「Street in the Darkness」を。朴訥としているがゆえに直情的に心臓を抉ってくるヴォーカルの空疎なサビは、歳を重ねれば重ねるほど、《夜より暗い昼間の街角》がすぐ側で横たわっていることに気づく現実、《誰か生き方教えてくれ》と乞わずにいられない現在を直視しなければならないことを警告してくる。積もり積もった深い諦観のために、涙を流すことができないほど乾き切った目と、声を上げることもできないくらい腫れ上がった喉を代弁するかのように、イントロとアウトロで泣き叫ぶギターの美しさがせめてもの救いだ。