イケメン俳優ぞろいの“映像美”ドラマ「天狗の台所」 見どころはウットリするほど緻密な“絵作り”
私の父が育った里山には河童(かっぱ)の伝説があった。河童の好物であるキュウリを栽培すると、家に死人や病人が出るといわれて、かたくなに作らなかったという。忌み嫌ったか、畏れていたのか。妖怪や物の怪の類いは、想像以上に日本人の根っこに染み込んでいるものだと思う。 【写真をみる】「こんなイケメンがいたなんて…!」 “天狗”役の3人が美しすぎる
なんでこんな話かというと、河童ではなく、天狗(てんぐ)のドラマを紹介したいから。天狗の末裔(まつえい)が里山で清貧かつ丁寧に暮らし、令和の人間社会になじんで貢献する「天狗の台所」である。昨年のシーズン1で、映像の美しさ(役者も含め)と料理のシズル感、設定の面白さに引かれたのだが、原稿に書くタイミングを逃してしまった。シーズン2放送を祝して鼻息荒く天狗ってみる。 まずは天狗の末裔たちを。飯綱(いづな)家には祖母・式子(浅茅陽子)、弁護士でアメリカ在住の母・一乃(渡辺真起子)がいる。一乃の長男・基(もとい・駒木根葵汰〈こまぎねきいた〉)は祖母から飯綱家を継ぎ、現代社会とは離れて、里山に一人で暮らしている。基の背中には先祖返りの印である羽が生えている(到底飛べそうにない小ささでかわいい)。 次男・オン(越山敬達〈こしやまけいたつ〉)は父母とニューヨークに住む現代っ子だったが、シーズン1で隠遁生活を体験。里山に魅了され、基にも懐いた。隠遁生活とは天狗のしきたりで、14歳の1年間は里山で暮らさなければいけない、というもの。そりゃキツいなと一瞬思ったが、修行や苦行の類いはない。自然の恵みに感謝し、天狗の伝承を理解している里山の人々と助け合いながら暮らすだけ。しかも基が作る料理がプロ級の仕上がりで、腹の虫を刺激する絶品ばかり(甘味も完璧)。鄙びた古民家の台所にはかまどがあり、しかも土間なのよ。鍋釜もシンプル。「台所の絵作り」が実に緻密で思わずうっとり(料理下手のクセにそういうとこはチェックする)。
多忙な父母がかまってくれないので、オンは母のクレジットカードを使い、勝手に来日。夏休みに大がかりな家出、というのがシーズン2。カードは使用停止、帰りの渡航費は自分で稼げと命じる母、うん、正しい教育だよね。オンは自分で作った野菜やまきを売って稼ごうともくろむ。基宅の生活は清貧で最小限だ(家計簿も清々しいほど質実剛健)。里山の高齢者宅の草むしりを手伝っても、御礼はつぶしたての鶏肉だったりする。 文明と疎遠な生活を選んだ基、スマホ一つで世界を広げる令和っ子のオン。兄弟でも育った環境が異なる二人の温度差は、優しく愛おしく描かれていく。 また、天狗界隈で権威を誇る京都の愛宕家の天狗もいる。次男の有意(ゆい・塩野瑛久)は天狗の家筋に嫌気がさしてか家出し、そのまま都会で就職。自分で望んだ生活のはずだが、仕事に追われて心が疲れている様子。シーズン2では、有意の兄で、愛宕家当代の慈雨(じう・古屋呂敏)も登場。こちらの兄弟には確執があるようで……。 誰だって誰かの末裔なのだが、伝承系の重みが加わる。天狗の末裔が人間界で生きていく憂さも垣間見えてきたので、ただの「里山美麗グルメ」ではない。良質な作品と改めて感心する。
吉田 潮(よしだ・うしお) テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。 「週刊新潮」2024年12月5日号 掲載
新潮社