「ある日、帰宅したら家がもぬけの殻だった」。離婚で「逃げられた」場合、続いて起きることは
離婚とは「夫婦という状態をやめる」だけ。「争い」ではなく「話し合い」であってほしい
離婚は人生の終わりではなく、単に二人が夫婦としてやっていくことが難しかっただけ。離れて暮らしても親業は続けられるよう方策を話し合い、再スタートの条件を決めるというスタンスが最良と大村先生は言います。 「共同親権制度に変われば、連れ去りから始まる『離婚マニュアル』は不要になり、不毛な親権争いをしなくてすむようになります。たいていの人ははじめは離婚を拒んでいても、相手の離婚の意思が固いとなれば諦めます」 もちろん執着する人もいますが、それはまた別の話。ただし、執着が危害になる場合は警察に排除されるべきと大村先生。身体の安全を確保できたうえで必要なことは? 「子と親の関係性は、夫婦の関係性とは全く別のものですから、冷静に円満に、離婚後の養育費や親子交流など養育に必要なことを協議して定める。そんな、子どもを中心にした、母と子、父と子、それぞれの親子関係を尊重する手続きが進められるようになるのです。この調整に第三者が入る制度をつくる必要があります」 そういえば、協議で円満に離婚をしたとしても、単独親権ならばどちらかの親は親権者ではなくなるので、例えば父親が親権を取った場合、母親は子どもの手術の際の同意書にサインができなくなるんですね? 「はい、離婚後親権者として指定されなかった親は医療同意ができません。医療機関からも親権者でないからと断られると当事者から聞いています」 この、同意の運用を検索していて気づいたのですが、22年には「離婚前の別居中、家裁に面会禁止命令を出されている親に子どもの手術同意を得なかったのは違法」という地裁判決が出ています。面会禁止命令ということは、明らかなDV夫と認定されたケースですよね。しかし逆にまだ婚姻中ですから、もし共同親権になっていれば、どちらか1人の親のサインでもOKだったのでしょうか? 「いいえ、その認識は間違いです。共同親権というのは誰も体験したことのない特別なことではなくて、日本では婚姻中は共同親権、共同行使が原則です。ですから、同居親が単独親権者のように決めてしまうことは本来はできないのです」 ええっ、じゃあDVで逃げている間に子どもに不慮の事故があった場合、「サインしてやるから戻ってこい」と言われたら帰らないとならないですね……。やっぱり共同親権は怖いです。 「ここは難しく、かつ誤解も生じやすいところだと思います。まず、すべての離婚の背景にDVや児童虐待があるわけではない、むしろ全離婚件数から見れば少数であることは前編でお話したとおりです。同居親が重要事項を単独で決定できるとなると、それって子どもに対する支配権のようなものだと思いませんか?」 #3では連れ去られたあとに起きることを中心に事例を伺いました。続いて海外ではどうしているのかを教えていただきます。
お話/弁護士 大村珠代先生 神奈川県・JR川崎駅から徒歩7分、神奈川法律事務所に所属。家族法が専門。子の連れ去り違憲訴訟、自由面会交流権訴訟の共同代理人。日ごろの暮らしに密接な離婚、相続、成年後見などが重点分野です。連れ去りや離婚に悩む方、女性弁護士になら話せる悩みがある方、この機会にぜひ相談してみてください。「依頼者・相談者が自分らしい生き方ができるよう伴走します。ひとつひとつの事件に真摯に、親身に向き合うことを心がけています」。日弁連高齢者・障害者権利支援センター、神奈川県弁護士会高齢者・障害者の権利に関する委員会所属。
オトナサローネ編集部 井一美穂