かわいいだけじゃなかった!すべてが猫への愛情たっぷりに描かれた『三日月とネコ』の注目ポイントとは?
映画『三日月とネコ』(5月24日公開)は、安達祐実、倉科カナ、渡邊圭祐共演により、猫好きという共通点を持つ男女3人の共同生活を通して、その時々の選択に迷ったり、満ちたり欠けたりの人生を進んでいくオトナたちを優しく見つめる人間ドラマ。そして、その傍らにいる猫という大切な存在を、観る者の心に自然にすっと溶け込ませる。当然、登場する猫たちのかわいらしさも注目ポイントの一つだが、「ただかわいいだけ」にとどまらない作品になっている。 【写真を見る】安達祐実ら出演者をメロメロにしたかわいい猫たち… ■猫好きに支持されるコミックがついに実写映画化 原作はウオズミアミの「第1回anan猫マンガ大賞」大賞受賞作。毎年2月22日に特別編集の「にゃんこ♡LOVE」号を発売していることでも知られる「anan」による賞とあって、猫好きにも支持されている。 書店で働く40代の灯(安達)は、愛猫“まゆげ”と、つつましやかに1人と1匹の暮らしを続けてきたが、熊本地震をきっかけにその生活が変化する。地震直後の停電でマンション外に一時避難していた際、30代の精神科医師である鹿乃子(倉科)と、20代のアパレルショップ店員の仁(渡邊)と、猫を通じて意気投合。共同生活をスタートさせたのだった。 年齢も境遇もバラバラ、恋人でも家族でもないオトナたちが、他人と新たに共同生活するのはハードルが高い。しかし彼らには猫好きという大きな共通点がある。やがて彼らの「家」は、それぞれの心の拠り所になっていく。 ■映画だけでなく、撮影中の安達にも「運命の出会い」が 本作には、まず灯の相棒でありシニア猫の“まゆげ”が登場。俳優としてのキャリア十分の安達が「すばらしい貫禄で撮影中もなににも動じない、どっしりと安心感を持って、すごく助けられた」と語る堂々たる俳優猫ぶりを見せる。さらに、もともとは捨て猫だった鹿乃子の愛猫“ミカヅキ”。白くてふわふわした長毛で気品あふれる姿にくぎ付けだ。3人が共同生活することになったのは、鹿乃子の部屋。共同スペースはリビングが中心で、3人はそこで食事を共にし、会話を交わし、生活を育んでいく。 本作の撮影中に、知人から「猫を引き取ってくれないか」と話をもらったという安達は、「運命的なものを感じて実際に大人の猫を飼うことになった」そうで、もともと猫を飼っていた倉科から、爪切りのアドバイスなどをしてもらったとか。倉科も「私と安達さんはそれぞれキャラクターも似ている部分があり、猫も飼っているから、一緒に暮らせるかもねと話していました」と仲良しぶりを明かしている。 一方、犬派だったという渡邊。しかし本作の撮影で猫のかわいさに魅了されたらしく、安達が「猫ちゃん部屋に入り浸っていて、その日の猫ちゃんたちのコンディションは渡邊さんが教えてくれた」と証言するほど。渡邊も「現場にはかわいい猫たちがいて、おいしいご飯の数々が用意されていて、うっとりしていました(笑)」と話した。 ■リアルに描かれる「保護猫譲渡会」シーン 3人の生活は進み、シニアだった“まゆげ”は「虹の橋のたもと」(※ペットたちが亡くなったあとに、老いや病などから解放された元気な状態で、飼い主が亡くなるその時まで待っているとされる場所)へ。彼らの暮らしに、新たな出会いが待っていた。仁がひと目惚れしたつぐみ(石川瑠華)が保護猫のボランティアをしていたことをきっかけに、譲渡会へと訪れた3人は、白黒猫の“ギー”と“フー”を迎えることになる。 ここ数年、「保護猫譲渡会」という言葉を耳にすることが増えた。いわゆる、保護された猫と里親希望者とをつなげるイベントのことだ。本作の譲渡会シーンは、実際の譲渡会サロンを使用して撮影。譲渡会の代表役で、「猫は私にとって人生の師匠」と断言する川上麻衣子が特別出演している。 川上といえば、猫好き界隈では有名な存在。俳優としてはもちろん、保護猫問題や殺処分ゼロに向けた取り組みなど、日本における猫を取り巻く環境を見つめて、猫と人との幸せな暮らしを考える団体の一般社団法人「ねこと今日」の代表としても精力的に活動している。Web上に開設した「にゃなかタウン」には愛猫を住猫(じゅうにゃん)として登録できるのだが、その数は1000匹を超えた。また猫の街として人気の谷中で行われている猫譲渡会への協力を続け、YouTubeやInstagramでも情報を発信している。 本作での撮影に際して「私も猫の譲渡会を行う場所を提供し、SNS等で協力しているので、すっと溶け込んでしまい、撮影に参加されていた実際のボランティアの方と話し込んでしまいました」と振り返る川上。さらに「“譲渡会”がだいぶ認知されてきたとはいえ、まだまだ情報が行き届いていないと思います。もっと知っていただけたら幸せな猫が増えると思います。私も発信し続けるので、どんどん取り上げていただきたいと思います」とコメントを寄せる。 この譲渡会のシーンで、川上が語る「譲渡の条件(お願い)」がある。それは、「ペット飼育に関して家族全員が同意していること」「終生飼育を約束すること」の2点だ。団体によって譲渡の条件は異なるが、この2点は外せない事柄であり、「譲渡会」が知られるようになってきたいまだからこそ、猫を迎える心構えも知っておく必要がある。川上が口にすることで、説得力のあるシーンになった。 ■猫が快適に暮らすための工夫があちこちに登場 さらに本作は、猫と暮らす生活をリアルに映す。3人が知り合った序盤。マンション外への一時避難のシーンで、“まゆげ”と“ミカヅキ”は、猫の移動に使うキャリーケースに入っている。猫は繊細で臆病な生き物であり、地震でパニックになることが多い。実際、震災で家から飛び出し、行方不明になった猫は多く、抱えて外に出てしまったら、離れて一生会えなくなる危険性がある。日ごろからキャリーケースに慣れさせておくことも大事なのだ。 鹿乃子のリビングには大きなキャットタワーがあり、そこで“ミカヅキ”がくつろぐ。猫は上下運動が必要な動物で、こうしたキャットタワーはマンションなどで暮らす猫との空間にとても有効。さらに“まゆげ”や“ミカヅキ”がご飯を食べるシーンでは、器が台に乗せられていた。首を下げた姿勢で食べると、猫の吐きにつながるため、高さのある台に乗せることが多いのだ。部屋にはちゃんと猫トイレも映り込んでいる。 また新たに加わった子猫の“ギー”と“フー”は、人がいない時間帯をケージで生活している。かわいそうに感じる人もいるかもしれない。しかし“ミカヅキ”のような先住猫がいる場合や、特に子猫は誤食などの事故につながることが多いため、ケージを使うことも、猫を大切に思うゆえの工夫だ。 2023年時点で、猫の飼育頭数は約907万頭と推計されている(一般社団法人ペットフード協会より)。身近な存在だからこそ、家族でありつつ、でも人間とは同じでない、きちんと配慮の必要な「命」と向き合っていることもちゃんと理解する必要がある。『三日月とネコ』は、人生の途中にあるオトナたちを優しく見つめながら、共に在る猫たちとの暮らしも垣間見せてくれる。 文/望月ふみ