演出家が必要だった岸田政権
政治不祥事
国民に政策への理解を高めてもらう工夫を十分しない中で、不祥事が起こると関心はそちらに向かい、理解を得ることが一層難しくなる。 岸田政権では不祥事や政治的問題が多発した。最初に政権への打撃となったのは、22年7月の安倍元首相の銃撃事件をきっかけに旧統一教会と自民党政治家の緊密な関係に関心が集まったことである。そして、この問題のため10月に閣僚が辞任に追い込まれた。また同時期に3人の閣僚が失言や不祥事のために相次いで辞任する。23年前半は、前年10月に総理秘書官に起用した長男の翔太郎氏をめぐる不祥事がダメージとなる。さらに23年9月の第2次岸田内閣の再改造後、3人の副大臣・大臣政務官が不祥事のために辞任する。 最後が政権にとどめを刺した政治資金問題である。 重要政策と不祥事の時期が重なった例を二つ挙げる。「資産所得倍増プラン」は、22年秋に閣僚が次々と辞任するなかで策定された。今年4月に政治資金問題に関心が集まっている中で首相は訪米してバイデン大統領と日米関係を強化する数々の施策で合意した。相次ぐ不祥事がなければ、首相の政策実績について、より理解が深まったはずである。 (『中央公論』2024年10月号より抜粋) 竹中治堅(政策研究大学院大学教授) 〔たけなかはるかた〕 1971年東京都生まれ。93年東京大学法学部卒業。同年大蔵省入省。98年スタンフォード大学政治学部博士課程修了、Ph.D.(政治学)。専門は比較政治、日本政治。著書に『首相支配』『参議院とは何か』(大佛次郎論壇賞)、『コロナ危機の政治』など。