大阪の21坪の長屋にシンガポールの人気観光地みたいな家を建てたい!建築家・堤庸策さんの秘策は…
海外旅行が好きという住み手のSさんが求めたのは、シンガポールにあるプラナカン建築のような家。この希望に対し、建築家の堤庸策さんはプラナカン建築を構成する要素を敷地に合わせて再構築することで、開放感あふれる住まいの実現を目指しました。 【写真集】建築家・堤庸策さんが手掛けた21坪の家。2つの庭とアーチに注目!
大阪の住宅密集地に異国のエッセンスを取り込む
古い民家や商家が残る住宅地。長屋状の敷地に立つこの「S邸」は家族3人が暮らす住まいです。住み手のSさんの要望はユニークで、“シンガポールのプラナカン建築のような家”というもの。旅先で見た建築に興味を引かれたSさんは、外観や間取りにも打ち合わせのときからしっかりとした構想があったといいます。 「プラナカン」とは15世紀にシンガポールやマレーシアに渡ってきた中国系移民の子孫のことを指し、現地の文化と中国の文化が混ざり合った独自のスタイルをつくり出しました。細かな装飾やカラフルな色壁が特徴的な彼らの建築は観光スポットとしても人気。堤さんは当初、住み手のもつ外観のイメージや間取りからプランを考え始めましたが、周辺環境との調和やSさんが本質的に求める暮らし方とは離れているように感じたといいます。そこで、「プラナカン建築そのものではなく、それを構成する要素を読みとき、現代の日本の住宅に落とし込む――そんなイメージで再びプランを練ることにしました」と堤さんは設計を振り返ります。
空間に広がりと奥行きをもたらす2つの庭とアーチ
その要素の1つが“ピロティ”でした。プラナカン建築は今回の敷地と同じように、建物同士が寄り添うように立つ長屋式の建物。1階が店舗、2階を住居にするケースが多いことから、どの家も1階にピロティを設けて通路にすることで、アーケードのように隣地の建物へ行き来できるようになっています。堤さんはその“アーチをくぐる”という行為をこの住宅のコンセプトにしました。 建物は長方形の敷地いっぱいに建て、道路側に前庭、住まいの中心部に中庭を配置。この2つの庭は自然を感じて暮らしたいというSさんの要望であるとともに、建築面積を制限内に収める建ぺい率への解決策にもなっています。屋根には勾配をつけて2つの庭に光を届けられるよう配慮しつつ、空間のボリュームにも変化を生み出しました。 室内は1階の南側にLDK、北側にSさんの寝室と浴室、2階に子供室を用意し、個室と浴室以外にドアを設けていないオープンな空間。そこに配されたアーチ天井が、移動するたびにアーチをくぐってアーケードを歩くような楽しさや期待感を演出しています。アーチの形状は弧の長さや切り取り方をあえて変えることで、空間にさらなる奥行き感や広がりを生み出しました。
自然環境にも、快適性にも配慮した家づくり
また、すべての物件で、自然環境を考慮した設計を心掛けているという堤さん。S邸でも仕上げには漆喰や無垢のフローリングなどの自然素材を使用し、さらに壁には吹付け断熱材、窓にはペアガラスを用いることで高い断熱性も確保しています。 土地という真っ白な地図にどんな家を描くか――。家のデザイン、間取りはもちろん、どう暮らしたいかという“未来”も住宅は表現されていなければなりません。21坪という限られた敷地に住み手の個性と建築家のこれからの環境に配慮したサステナブルな視点が詰め込まれ、健やかで心地よくときを重ねられる住まいが完成しました。