注目され始めた生理による損失、カギは学校教育 経産省「月経随伴症状の経済損失は5700億円」
「生理による機会損失」、社会のあり方も関係
また、知識の欠如や意識の壁は児童生徒の機会損失にもつながりかねないことが、同調査の結果から浮き彫りになっている。 「調査では、『生理が理由で学校や職場を遅刻・欠席・早退した経験があるか』という問いに対し、32.8%が『ある』と答えています。学校の欠席は機会損失に、アルバイトの欠席は経済的な損失につながると言えます」 さらに、低用量ピルで生理痛やPMSを和らげられることについて10人に6人は「知っている」と答えたものの、生理によって「遅刻・欠席・早退した経験がある」と答えた女性のうち、実際に低用量ピルや鎮痛剤を購入したことがあるのは30.8%にとどまった。「薬に頼るのはよくないという意識や、ピル=避妊というイメージから『遊んでいる子と思われるのでは』という意識があるようです」と、長島氏は説明する。 生理による機会損失が生まれる背景には、社会のあり方も大きく関わっていると言える。 「日本だけに限りませんが、1日8時間、月曜から金曜まで働くスタイルは健康な男性を前提としており、生理やPMSなどで体調に波のある女性を想定したフレキシブルな形にはなっていません。一方で、日本には世界的にも珍しい生理休暇があります。これは戦前から議論され、1947年に労働基準法で定められたものですが、2020年度の厚生労働省『雇用均等基本調査』によると、生理休暇を請求した女性労働者の割合はわずか0.9%。企業で働く私の友人なども『生理は突然重くなることもあるし、何人もの上司の決裁が必要で取得しにくい』と言っており、うまく機能していません」
「個人的な問題」ではなく「社会的な損失」だ
学校の教育活動もおそらく、女性に体調の波があることは前提になっていない。例えば、プール授業や一発勝負の試験において、生理中の女子児童や女子生徒に十分なケアや評価が行われている学校はどれくらいあるだろう。女性教員も、プール指導や宿泊行事など生理による負担が大きい場面で「ここは代わってほしい」とは言いづらいのではないだろうか。 こうした中、文科省が2023年12月19日に出した通知が話題を呼んだ。それは月経随伴症状等の体調不良で高校入試を受けられないケースも追試験の対象とするようにというもの。これは大きな一歩と言えるだろう。 長島氏は、生理をめぐる問題を解消していくには、こうした制度面の充実とともに、1人ひとりの意識の変化が重要になると話す。 「生理やPMSの重さについては個人差があります。だからこそ、『自分はこうだったのにあの人は怠けている』といった個人的な問題に終わらせないこと。最近では更年期離職による経済損失も課題として捉えられ始めていますが、更年期障害も同様です。生理や更年期による不調は個人的な問題として語られがちですが、実は社会的な損失。そうした意識が1人ひとりに共有されていけば、女性は職場で働きやすくなるはずで、学校でも機会損失は生じにくくなるでしょう」 こうした意識変革のカギとなるのは、やはり教育だ。小学校の4年生になると保健体育で生理が扱われるが、「大人も若者も知識の欠如がまだまだ大きい」と長島氏は指摘する。 「生理の仕組みはもちろん、PMSや生理が終わった後の更年期についても教えるべき。生理の重さや経血量を自分でコントロールすることはできませんが、鎮痛剤のほか、今は生理周期を把握しやすいアプリなどのフェムテックもありますし、そうしたツールの活用を含めた自分の身体との付き合い方も学ぶ必要があると思います。生涯にわたる身体との向き合い方について、学べるようにすることが大切ではないでしょうか。また、生理痛が軽い母親には生理痛が重い娘の辛さがわからないというケースもあるため、やはり身体に関わる教育は、家庭ではなく学校が担うべきだと思います」 また、生理の話は女性だけが知っていればよいというものではない。第二次性徴期や更年期は男性にも訪れる。男性も、自身の身体の変化はもちろん、女性の生理や妊娠、出産の知識もしっかり学ぶべきだという。 「男性も女性も、お互いの身体へのリスペクトが大事。子どもたちにはそれを大前提に、男女の身体の変化に伴う心の変化は成長過程として当たり前のものだということ、そしてその両方の変化についてきちんと教えてあげることが大切です」 生理にまつわる体験はセンシティブでプライベートな側面も強いが、社会と無関係なものではない。女性も男性も大人も子どもも、身体の変化やその向き合い方について知ること。それが、誰もが活動しやすい社会の実現につながると言える。 (文:吉田渓、注記のない写真:Graphs/PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部