「おなかを抱いて前屈みになったら赤ちゃんが出てきました」孤立出産で罪に問われる女性たち#3
「ごめんなさいと謝るばかりでした」涙ながらに語った事件当日のこと
弁護人や検察官からの質問は、事件当日のことにも及んだ。 弁護人Q 当日、交際相手の家に到着してからどうなった? ―とても痛くて水がいっぱい流れていたのでトイレへ行きました。おなかを抱いて前屈みになったら赤ちゃんが出てきました。座ったまま気を失いました。このままではいけないと赤ちゃんを抱っこして立ち上がって、また気を失ってしまいました。赤ちゃんは紫色で、目も開かず、泣かず、生きているようには見えなかった。「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣いて謝るばかりでした。 グエット被告は時折涙をぬぐいながら、大量に出血し、その後も何度も意識を失ったと語った。 弁護人 Qへその緒を切ってからはどうした? ―家中を回って赤ちゃんを入れるものを探しました。亡くなった赤ちゃんが寝るちょうどいいものを探したかった。 弁護人Q出血を先にとめようとは考えなかった?―考えることができなかった弁護人Q「捨てよう」「処分しよう」と考えた?―いいえ。私の目の前にごみ箱しかなく、ごみ箱に赤ちゃんを入れました。 弁護人 Qごみ箱に遺体を入れた後、上にケーキの箱を置いたのはどうして? ―ベトナムのふるさとでは誰かが死んだら上にカバーする。赤ちゃんが亡くなってしまったので何かで覆いたいと思いました。 弁護側は、被告が事件当日、経験したことのない陣痛に見舞われて死産に至り、羊水や血液が滴り落ちる遺体を裸のままにしておくことはできないとビニール袋に入れたと説明。監理団体から「妊娠したら帰国となる」旨を繰り返し説明されていたことから、帰国させられないようにするにはどうしたらいいか考えながらも、体力の限界を迎え、すぐそばにあったごみ箱の上に遺体をひとまず置いたとして「遺棄にはあたらず無罪」と主張している。
例えばですが堕胎は考えなかった?―一度もないです。
続いて、検察官による質問が行われた。 検察官 Q交際や行き来が禁止されていたルールを破ることについては? ―先輩が監理団体などが脅かしているだけでそんなルールはないと。インターネットや新聞などを見ても。組合も信じなかった。 検察官 Q「妊娠したら帰国させられる」については信じていた? ―信じていました。 検察官 Q妊娠を両親に相談した? ―いいえ。 検察官Q なぜ? ―心配をかけると不安だった。お金を稼げなくなると。 検察官 Q子供はどうするつもりだった? ―成長できるように食べたり飲んだりしていた。 検察官 Q育てるつもりだった? ―はい、そうです。 検察官 Q例えばですが堕胎は考えなかった? ―1度も考えたことはない。ひとつめの理由は私の子だからできない。ふたつめはキリスト教だから堕胎はできない。 検察官Q どこで産むつもりだった? ―そこまで考えなかった。おなかが大きくなったらばれて帰国させられると思っていたからです。 検察官Q 妊娠発覚後、病院に行くつもりはなかった? ―行きたかったけど、お金がなくてどうしようもなかった。 検察官 Q誰かに相談することは? ―できなかった。技能実習生の先輩から病院に行きたければ監理団体・組合、通訳に連れて行ってもらうしかないと聞いていました。日本に来たばかりで借金がとても多く、言うことはできなかった。 検察官Q どうしてごみ箱に遺体を入れた? ―何も考えることができず、目の前にはごみ箱しかなく、ごみ箱に入れました。 グエット被告は、「監理団体・組合と話して赤ちゃんを守ることができなくて申し訳ない」とも語った。 弁護人が「監理団体や組合に逆らってでも、子供を守るべきだったと思っている?」と尋ねると、はっきりとした口調で「はい、そうです。 」と答えた。
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