4月に行われる統一地方選挙 現状と意義とは? 大阪大学准教授・砂原庸介
「統一」の意義
たかが選挙のタイミング、と思われるかもしれない。しかし、複数の選挙を統一的に行うことには、重要な意味がある。それは、有権者が投票を行うときに、関係するすべての選挙をまとめて判断することがあるからである。そのときに最も重要な役割を果たすのが、複数の選挙を包括する「政党」というラベルである。つまり、複数の選挙をまとめて行うことで、それぞれの選挙を別々に行うよりも、「政党」というラベルを通じて判断される可能性が高くなるのである。 その極端な例が、2014年の11月に行われた台湾の統一地方選挙であろう。台湾では、それまでバラバラの時期に行われていた9つの地方選挙をまとめて同じ日に選挙を行うことにしたのである。そのくらい一度に選挙を行うとき、有権者が9つの選挙についてそれぞれ判断するのは認知的な負荷が非常に高くなる。そこで、「政党」というラベルを利用して自分の支持政党を中心に投票するようになると考えられる。ただし、台湾の地方選挙は日本と同様にいわゆる中選挙区制で行われるために、最後は個人を選ばなくてはいけないところも出てくるが、それにしてもある選挙では民進党の候補者、別の選挙では国民党の候補者に投票する、といった選択は少なくなる。
ひるがえって日本について考えると、統一地方選挙といっても、有権者がそれぞれの選挙で「政党」を意識する度合いはそれほど強くない。それは、統一度の低下にみられるように、選挙が全くバラバラのタイミングで行われることが大きいと考えられる。毎回毎回知事・市区町村長や議会選挙などの地方選挙をいっせいに行えば、選挙のために「政党」という単位でまとまることに大きな意味が出てくるが、そうではないとすれば政党の存在はただの足かせになり、政治家たちはその意向を無視してバラバラに行動しようとするだろう。その結果、個々の知事・市区町村長や地方議員たちを政党がコントロールし、政党を通じて有権者の多数派の意思を実現することが難しくなってしまうのだ。 2014年は地方議員の酷い振る舞いが、マスメディアを通じてさまざまに明らかにされた年であった。地方議員がそんな行動に出るのは、ひとつの選挙区から場合によっては何十人も当選するような地方議会の現行の選挙制度のもとで有権者が議員たちに対して有効なプレッシャーを与えることができていないからである。そんなときに、「政党」は議員たちの行動に規律を与える存在として、もっと重要視される必要がある。すなわち、有権者が政党のラベルを重視することで、そのラベルの価値を高めるために、政党がダメな政治家を追い出すようにプレッシャーをかけるのである。複数の選挙を統一的に実施することは、単純に選挙にかかる費用を下げるだけではなく、政党が議員(候補者)たちに対して、このような規律を与える可能性を引き上げる有効な手法としても理解されるべきだろう。 ---------------- 砂原庸介 (すなはら ようすけ) 1978年、大阪府生まれ。2001年東京大学教養学部総合社会科学科卒業。2009年東京大学大学院総合文化研究博士(学術)取得。2013年大阪大学法学研究科准教授、専攻は政治学・行政学。『地方政府の民主主義―財政資源の制約と地方政府の政策選択』(有斐閣)、『大阪―大都市は国家を超えるか』 (中公新書)など。