『虎に翼』「はて?」も定着なるか 「じぇじぇじぇ!」など朝ドラの名セリフを振り返る
「はて?」 この言葉は4月1日からスタートしたNHK連続テレビ小説110作目『虎に翼』の主人公・寅子(伊藤沙莉)が第1話からよく発しているものである。 【写真】女学校教師(伊勢佳世)と面談する直言(岡部たかし)と寅子(伊藤沙莉) これはどうやら寅子が混乱している時に出てくる口癖のようだ。セッティングされたお見合いに行くのが嫌で前夜に脱走を試み、結婚に対して「全く胸が踊らない」と言う寅子に、母のはる(石田ゆり子)は「女学校まで行かせたのに情けない」と嘆いた。でも女学校は花嫁修行の場ではなく、勉学に励むところだ。そこで「はて?」となり、「得た知識を卒業後に生かしたいと思うのは普通のことでは?」と反論する寅子の考えはとても筋道が通っていて正しい。 さらに寅子の3度目のお見合い相手である横山太一郎(藤森慎吾)は「結婚相手とは様々な話題をともに語り合える、そんな関係になりたい」と話していた。嬉しくなった寅子は最近の社会情勢について語り出した。確かに少し前のめりで、横山の話を遮ってまで話していたのは良くなかったかもしれないが、先に「ともに語り合いたい」と言ったのは相手の方である。それなのに横山は不機嫌になり「女のくせに生意気な」と吐き捨てるように言い残して席を立ってしまった。寅子が「はて?」とつぶやいたのは、当然の反応で正しい。でも“正しい”だけではうまくいかないのが人生。特に女性の立場が低かった寅子の時代では、“至極真っ当なことをいう女性”はとても生きにくかったことだろう。寅子は女学校卒業前に早速壁にぶつかっている。 主人公に印象的な口癖のある朝ドラは過去にもいくつかあった。アキ(のん/当時・能年玲奈)が驚いた時に言う「じぇじぇじぇ!」がその年の流行語にもなった『あまちゃん』(2013年度前期)もそのひとつである。「じぇじぇじぇ」は作品の舞台にもなった岩手県の三陸海岸沿いの地方に実際にある方言。「じぇ」自体が驚いた時や感動した時に使われる。 筆者はその地方の出身なので細かく解説してしまうが、岩手県内には同じように「じゃ」や「ば」を使う地域もある。そして話す人が感じた驚きや感動の大きさに比例して、繰り返して使われるのも特徴的だ。つまり、「じぇ」と一言なら、その感情の大きさはやや小、「じぇじぇ」なら中程度。だから「じぇじぇじぇ」はかなり感情が動かされていることになる。 東京から引っ越してきたばかりのアキも、最初は弥生(渡辺えり)やかつ枝(木野花)ら地元の海女たちからこのようなことを説明されておもしろがっていたが、次第にその口癖が移り、ふとした時に出てくるように。アキの素朴なキャラクターと音が独特なこの方言の相性はよく、たちまちアキのトレードマークのようになっていった。 のちに日本初の女性弁護士となる寅子は、『あさが来た』(2015年度後期)の主人公・あさ(波瑠)に似ているかもしれない。あさは幕末から大正の時代に、銀行や生命保険会社を経営し、さらには女子大学を日本で初めて作った人物。言うなれば“職業婦人”の先駆けである。小さい頃から同年代の男の子の中にいても物怖じしなかったところや許嫁の新次郎(玉木宏)と結婚はしたが最初はあまり乗り気ではなさそうだったところなど、あさと寅子には成し遂げたことの大きさだけでなく、その人となりにも共通点が多そうだ。 そんなあさは「びっくりぽん」が口癖。たとえば、あさの商人としての才能を見抜いていた五代(ディーン・フジオカ)が東京にできたばかりの東京商法会議所の視察にあさを誘った時も「びっくりぽんや」とあさは驚いて笑ってみせた。その後にあさにはいろいろ言いたいことが溢れてくるのだが、肝心の「東京商法会議所」がうまく発音できない。新次郎などそれを茶化す人もいたが、あさは「2つだけ、よう分かることがありました」と五代へ思っていることを朗々と語り始めたのだった。あさの口癖は明るく朗らかで、時にかわいらしい彼女の様子をうまく表しているだけでなく、知性があり、したたかなところを印象付ける役割も果たしていたのではないだろうか。 きっと寅子が「はて?」と思うことはこれからもどんどん増えていくだろう。「言いたいことがあれば言いたまえ」と言ってくれた“偉い感じの人”穂高(小林薫)と出会った第2話では、寅子の中に「はて?」が浮かびすぎてポップな「はて?」ソングまでできていた。寅子の物語はまだまだ始まったばかり。「はて?」は寅子の名セリフとなりそうな予感がする。これからどんな「はて?」が飛び出すかも含めて楽しみにしていたい。
久保田ひかる