ポストコロナの中国 ある家族の苦闘(2) 収監中の夫を残し中国脱出 「今生の別れ」覚悟…増える海外亡命
夫の初めての裁判が開かれようとしていた22年7月、紫娟さんは息子を連れ、車で裁判所が開かれる陝西省へ向かった。当局が認めようとしない裁判の傍聴を要求するためだ。 しかし、裁判所がある街近くの高速道路の料金所まで来ると、おびただしい数の警察が現れた。“新型コロナウイルス対策”を理由に、行く手を阻んできたのだった。彼らは紫娟さんの車の周囲を、車両4台でブロック。結局、たどり着くことはできなかった。
■妻と子の出国 聞いて夫は…
その後、警察は紫娟さんの職場にも現れるようになった。活動を続ければ拘束する、子どもが学校に行けなくなる…などと脅されたという。ある時は警察が夜中の0時過ぎにやってきて、激しく扉を叩いた。息子のテイ美睿くんは怯えて、その日以来、夜1人で眠ることができなくなった。 やがて紫娟さんは母国を離れることを決断。22年10月、住んでいた深セン市から、息子を連れて鉄道で香港に行き、アメリカに脱出した。 夫はその後、裁判所で懲役3年6か月の判決を言い渡された。刑期は24年7月に終わる予定だが、家に戻ってきても妻と息子は居ない。さらに刑期を終えた後も、中国当局は政治犯などの場合、海外渡航を半永久的に禁じる措置を取る。 紫娟さんは自分を責めていた。「私が国を離れたことで、夫とは今生の別れになってしまいました。私が彼を捨ててしまったという気持ちになりました…」 しかし、家族との再会を心の支えにしていたはずの夫の言葉に、彼女は救われた。 「喜んでいたと聞きました」「私と子どもが自由がある場所に行けたから『自分は心配がなくなった』と弁護士に話したそうです。私たちが、他の政治犯の家族同様、弾圧を受けることを心配していたのです」
■「一番の心配は拷問のトラウマ」
紫娟さんは夫の身体も案じていた。常イ平さんは以前の拘束で10日間にわたって睡眠を取らせないなどの拷問を受けたと、SNSで訴えていた。 「一番心配しているのは、拷問によるトラウマです。刑期を終えた後、1人で暮らしていかないといけないのに…」 それでも守りたかったのは、息子の未来だった。記者が紫娟さんにオンラインで話を聞いていた時、テイ美睿くんはベッドでアメリカの地図を描いていた。地理の授業にはまっているという。 テイ美睿くん「アメリカの地理は面白いよ。西部には岩がたくさんあって、東部は湿った気候。大きな都市が多いから遊び場も多い」 友だちもたくさんできた。そして将来の夢も。 テイ美睿くん「パパのような弁護士になりたい」 陳紫娟さん「私は医者になって欲しいんだけど…」 テイ美睿くん「人助けがしたい」 夫はきっと、この子という希望を糧に生きてくれる。紫娟さんは息子の成長を夫に伝える日を、楽しみにしている。