<箱根駅伝>青学、初V理由は勧誘術と科学トレーニング
練習の「中身」は他の大学とはそれほど違わない。しかし、随所に原監督のアイディアと工夫が散りばめられている。そのひとつに、夏合宿で3年前から取り入れている特別メニューがある。それが1次合宿のフィニッシュを飾る「42.195km走」だ。「夏合宿の恒例行事にすることで、年々、みんな走りたくなってくるみたいです。これが42kmや、43kmではダメなんですよ。42.195kmだからいい」と原監督。キッチリと「195m」も計測する。ペースはキロ4分と箱根を目指す選手にはゆったりしたもの。参加は自主エントリーだが、故障者以外はほぼ全員が出走するという。選手のフィニッシュを迎え入れるマネージャーがトイレットペーパーなどで「ゴールテープ」を用意するほど手が込んでいる。 「42.195kmを走ることで、箱根駅伝にどういうメリットがあるかは正直わかりません。箱根を目指すうえで、30kmが距離走のベースになると思いますが、その距離を短く感じられるようにするのが狙いです。また、箱根駅伝の距離やハーフマラソンはたいした距離ではないんだなという感覚を養うこともできると思います」 今年度の春からは固定的な概念の準備運動や、腕立て、腕振りなどの陸上部的な筋トレも完全排除。カリスマトレーナーの中野ジェームズ修一氏から定期的に指導を受けて、「動的ストレッチ」と「コアトレーニング」を導入した。「走る前の静的ストレッチは意味がないことを知りました。動的ストレッチをやるようになって、それが直接走る動きにつながっている気がします」と神野が話すほど、選手たちに好評だ。原監督も「体 幹部分がしっかりしてきて、特に下位層の動きがまったく違う。故障も少なくなりましたし、ずいぶん変わりましたね」と効果を感じている。 初めての箱根Vを圧勝で飾ったが、優勝メンバーで卒業するのは8区高橋宗司と9区藤川拓也だけ。来季の学生駅伝ではV候補の筆頭になるのは間違いない。それでも、原監督は「勝つことがあれば負けることもあるもん。勝ったからといって大変じゃないよ。駅伝3冠? そんな期待は大学からされないと思いますよ」と笑い飛ばした。勝負へのプレッシャーよりも、ワクワク感が上回る。それが青学大というチームなのだろう。 消灯は22時、朝練習は5時30分から。もちろん原監督も朝練習から参加する。メディアには人懐こい笑顔を見せる原監督だが、練習中は温かい心と鋭い眼差しで選手たちを見つめている。 「他の大学と比べると、チャラいように見えるかもしれませんが、宝塚劇団と一緒です。舞台の上では着飾っていますけど、その裏では泥臭いことをしている。本番では少しくらいチャラくてもいいんですよ」 箱根路を軽やかに駆け抜けた青学大の強さが少しわかったような気がする。 (文責・酒井政人/スポーツライター)