ピザラーメンが大人気? ニューヨークで「ご当地化」するニッポン
「アニメをきっかけに健康を取り戻した」
日本のポップカルチャーを研究するローランド・ケルツは日本のアニメや漫画の人気の要因を次のように分析している。 「政治的、社会的、性別的、人種的な分断と対立の渦中にある米国社会に生きる若者世代にとって、日本のアニメや漫画は無害でKawaiiという側面があるだけでなく、キャラクターが人種や民族の枠組みを越えるものを感じさせてくれるのだ」 男性的なヒロイズムで覆われたアメコミにはない、キャラクターの人間性やストーリー性、世界観が個人のアイデンティティを模索する若者の共感を得たのだろう。初期はアジア系や黒人などマイノリティの人々を中心に支持されていたが、今日では白人のあいだでも人気だ。 今回のリサーチでインタビューをした30代男性は、少年時代の友情はNintendoやSEGAのゲーム機が育んでくれたと話す。 同じく、リサーチに応じてくれた20代男性は10代の多感な時期を支えてくれたのは日本のアニメで、体重減に悩まされた時に健康的な生活を取り戻すきっかけは日本のお米や焼肉だったという。彼は日本食を、加工が少なく良質なタンパク質と炭水化物で構成された栄養価の高い”クリーン”な食べ物だと表現した。 “極東”にある神秘的な国、日本への旅行の関心が高まっているのも、アニメや日本食の人気と無関係ではないだろう。子供の頃、日本のアニメやゲームに浸った経験は、日本へのポジティブな印象を形成し、日本旅行や日本製品へと誘う土壌となっているのだ。
地元で浸透する日本食
ニューヨークを中心にスーパーを展開するスーパーマーケットのウェグマンズは、2023年、マンハッタンに日本式の豊洲直送の鮮魚コーナー「SAKANAYA」をオープンした。抹茶(Matcha)を楽しめるスタンドやカフェは、健康的かつファッショナブルな飲み物として認知され、コーヒーの代替品として定着している。 メニューのバリエーションが豊富で、健康的、誰もが楽しめる日本食は、老若男女に幅広く受け入れられている。一方で、日本食は他のアジア系の人々に模倣されたおかげで、浸透してきたこともまた事実だ。1970年代に西海岸から上陸した寿司は、米国ではカリフォルニアロールのような”Sushi Roll”をさすことも多い。 日本ではないアジア系オーナーのお店も、日本人から見れば亜流とすぐにわかるが、米国人にとっては、それはどうでもいいことなのだ。 近年、ニューヨークで話題の寿司といえばミシュラン一つ星を獲得したレストランの「Joji」だ。オーナーシェフであるジョージ・リュアンは幼少期にニューヨークに移住し、地元の老舗寿司レストラン「Masa」で接客スタッフとして経験を積み、シェフになった。アメリカン・ドリームのサクセスストーリーを下敷きに、高級感のあるボックスにマグロの握りや鉄火巻きが並ぶ同店は、ミシュランの味を手軽に楽しめると人気だ。 先日、米国人の友人をマンハッタンの五番街にある高級デパート「サックス・フィフス・アベニュー」にあるカウンターのみのおまかせ寿司に誘った。白人の女性シェフが握る煌びやかな寿司は銀座と遜色ない価格設定だ。 友人に感想を聞くと、「見た目やプレゼンテーションなどマーケティングは頑張ってるが、シンプルで素材を活かすという日本の精神性は再現されていない」と語っていた。 彼によれば、テイラー・スイフトがカントリーミュージックから世界的なアイコンとなったように、オーセンティックな文化要素を盗み、アイデンティティやストーリーを洗練させ、宣伝し、再パッケージして大々的に売り出すのは米国の常套手段なのだ。 オーセンティックな日本食レストランが大々的にコモディティ化しなかったのには、日本文化の美徳、つまり精神性を重んじ、謙虚で繊細な側面が、積極的なマーケティングとは対岸にあったことも少なからず影響しているだろう。