ルポ・若者たちの都知事選2014 最終回 現場に寄り添う研究者
選挙戦中盤の2月3日、新宿・四谷三丁目にある宇都宮事務所を訪ねた。階段を上り、二階のドアを開けると、そこには老若男女が駆けずり回る活気ある風景があった。託児スペースとおぼしき一角には、小さな子供までいた。宇都宮陣営が「市民選対」といわれる理由がわかった気がした。 第二回 吹雪の中でライブした愛国ラッパー
受付らしき場所に行き「渡辺さんをお願い致します」と告げると、中年の女性に「どの渡辺さんですか」と言われた。「大学院生の渡辺さんです」と告げる。しばらくたつと「今の時間はみんな街頭に出てて、若い人は少ないんです」といいながら、大学院生の渡辺(25)が出迎えてくれた。
選挙だけでは社会は変わらない
渡辺は、大学院の修士論文を提出すると同時に宇都宮健児の選対事務所に入った。鍵開けの当番がある日は、事務所に朝8時に出勤する。早い時は午後9時に上がれる日もあるが、終電を逃して帰れなくなる日も何回かあったという。 テレビ討論や街頭で誰に何を訴えるかという文字通りの選挙対策から、情報収集や書類整理といった雑務までこなす。街頭に出るときもあるという渡辺は、宇都宮候補をあらゆる面でサポートした。 献身的に選挙活動に参加する渡辺だが、「もちろんやるからには勝ちたいし、勝つ為の方法をいつも考えている」と前置きしつつ、意外なことを言った。「選挙だけで社会は変わらないと思います」。
普段の活動の延長線上に選挙がある
渡辺は大学院で社会福祉の研究をする傍ら、NPO法人で労働や貧困問題に関する相談活動をおこなっている。東北大震災の後、被災地に長期間住み込み、支援活動もおこなった。また、大学三年生の時には宇都宮健児が名誉村長を務めた「年越し派遣村」に参加した。 選挙で宇都宮が勝てば、渡辺が普段している活動がやりやすくはなるだろう。しかし、選挙で誰かが勝ったからといって、社会が一気に変わるわけではない。「(選挙結果に関わらず)困っている人に向きあって問題の根源を探り、行政や政治家に働きかける。そういった活動の積み重ねによって、社会をよりよい方向へ変えていくことが重要です」。渡辺にとって、選挙戦とはあくまで普段の活動の延長線上にあるものなのだ。