ギガキャスト、次世代BEVラインから匠の技まで!! くるまづくりの未来が変わる!「トヨタモノづくりワークショップ」リポート
※寄稿元:月刊自家用車編集部(内外出版社) トヨタ自動車株式会社は、愛知県にある同社の貞宝工場、明知工場、元町工場で取り組まれている様々なモノづくり技術を「トヨタモノづくりワークショップ」としてメディアに公開。初公開となる、デジタルと革新技術でTPS(トヨタ生産方式)と現場力を進化させ、“もっといいクルマ”を生み出す原動力を見ることができた。 【関連写真掲載】ギガキャスト、次世代BEVラインから匠の技まで!! くるまづくりの未来が変わる!「トヨタモノづくりワークショップ」リポート
理念は「幸せの量産」。「未来を形にする」ための取り組みを大公開
ワークショップ冒頭で挨拶に立った執行役員Chief Production Officer(CPO)の新郷 和晃氏。クルマ製造の大変革のために「トヨタの技で、モノづくりの未来を変えたい」と語る。 トヨタはこれまで開発中の情報をあまり、いやほとんどオープンにしてこなかった。それは機密の問題だけでなく「完璧な物にしないと見せられない」と言う考え方の問題だったと思う。ただ、それでは目指すべき道が不明確なのはもちろん、実現のレベルも解らなかった。つまり“アピール下手”である。それが故に、新聞や経済誌の中には「トヨタは遅れている」、「トヨタは解っていない」などの的外れな記事が世に出ている。 最近で言えば「電動化」だろう。古くから開発・研究を進めているが、それは単にハード側の技術はもちろんだが、コスト低減や生産技術、更には材料の供給体制など、ビジネスを行なう上での体制づくりを着実に行なってきたが、正しい評価はされなかった。その理由は「トヨタはウンチクだけで、肝心なクルマが出てこない」だった。 「だったら全部見せるよ!!」 それが2021年の「バッテリーEVに関する説明会」だった。ここでは開発中の数多くのBEVモデルのお披露目と驚きの販売計画が発表されたが、筆者はここがトヨタの情報開示に関するターニングポイントだったと思う。「包み隠さず全てを見せる、つまり豊田章男氏が言う「トヨタは逃げない、隠さない、嘘をつかない」をリアルに実践したわけだ。その後も、「ここまで言うの!?」と逆に我々がビビるくらい、様々な情報を開示。 その一つが、今年6月に開催された「トヨタ・テクニカルワークショップ」だ。佐藤恒治社長率いる新執行体制が掲げた「クルマの未来を変えていく」上での3つの重要なカギ「電動化/知能化/多様化」を実現させるための最新技術を公開。技術トップである中嶋裕樹副社長は「各領域、90%まで見せています」と語った。 ただ、トヨタの理念は「幸せの量産」だ。つまり、いくら優れた技術でも“量産”できなければ意味がない。そこに関しても抜かりなしで、9月に「トヨタ・モノづくりワークショップ」を開催。要するに「未来を形にする」ための取り組みの公開だ。 多くのメディアの注目は全個体電池/ギガキャスティングの試作ラインだった。確かに全個体電池は高速・高精度スピードで素材へのダメージなく生産するために「からくり」の応用と「同期制御」を用いての実現、ギガキャストは長年培ってきた鋳造技術の秘伝のレシピを活かした金型・生産に関する知見、解析技術による品質アップ、金型交換の工夫による稼働停止時間のムダ削減など、どちらも試作と言いながらも 量産を見据えたモノである。 ただ、筆者がより興味深く感じたのは、実は他の部分だった。それは各工場での「現地現物」と「デジタル・革新技術」の融合だ。 貞宝工場では生産設備をデジタル上で再現しそこで検証を事前に済ませて設備をつくる……と言う取り組みを見学。生産領域トップの新郷和晃氏は「素早くやって何度もチャレンジ」と語るように、素早いビジネスだけではなくコスト削減まで可能にしているのだ。 また、多くの企業が抱える後継者問題に関しても、これまで暗黙知だった匠の技術デジタル解析することで、「解りやすく」、「簡単に」、「広く」習得できるようなツールを開発。これは人材育成にも非常に役立っているそうだ。 明知工場ではモノづくりの原点を見学。レース用エンジンの複雑な内部構造は匠の造形による1g単位の調整により具体化されるが、ロボットではできない繊細な作業や高品質な製品仕上げに驚いた。実はこれも未来に繋がっている。 以前、エグゼクティブフェローの河合満氏が「ある実験でロボットに美しい字を書かせるように教える際、書道未経験者が教えた場合と書道経験者が教えた場合とでは結果は歴然。つまり、トヨタ生産方式は熟練を重ねた『匠の技』をロボットに織り込むことが重要」と語ったが、そのためにも良いお手本……つまり人の技術は育て続ける必要があるのだ。 元町工場では次世代BEVラインを見学。クルマをフロント/センター/リヤの3分割構造で考える「モジュール構造」に加えて、コンベアで搬送せず自ら走って部品が組付けられる「自走ライン」による作業の効率化・生産性向上は、今後の自動車生産工場の景色を大きく変えるかもしれない。 もちろん、大きな変化だけでなく、からくりを使った「無動力装置の活用」、「エアレス塗装」による塗装工程のコンパクト化や省資源化、水素をはじめとする再生エネルギー活用など、規模や領域を問わずカイゼン活動は行なわれている。また、大きな課題の一つである物流問題への対応として、車両搬送ロボットの実証実験なども進められていた。 このようにトヨタの未来は着実に実現に向けて動き始めている。その戦略は単なる付け焼刃でなく、実に計画的に行なわれているのだ。これらを見て、まだ「トヨタは遅れている」と言うメディアの人は、真実を知って、考えを改めた方がいい。そんな印象を受けた取材だった。 ●まとめ:月刊自家用車編集部 ※本記事の内容はオリジナルサイト公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。 ※特別な表記がないかぎり、価格情報は消費税込みの価格です。