「宝くじでも当たらないかぎり、65歳でリタイアすることはできない」…引退後の備えが不足するアメリカの50代(海外)
X世代は、年長のベビーブーマー世代と比べて引退のための資金が不足している可能性があると資産アドバイザーは指摘している。 50代半ばの世代では、引退後に備えた貯蓄額が5万ドル(約740万円)を切る人の割合が大きい。 プルデンシャルの調査によると、多くが、引退後もパートタイムで働くか、家族の援助を受けることを考えている。 製材工場に勤務するジム・トーマスさん(52)は、自身の引退後に備えた貯蓄が不足していることをよく理解している。現在の仕事は「稼げる」とトーマスさんは言うが、ここ10年のあいだに解雇1回、離婚1回、そしていくつかの法的な争いを経験して財布の中身が空っぽになったため、今なお家計の穴を埋めようとしている。 これらの出費で、トーマスさんの貯蓄は深刻な打撃を受けた。そのため、現在ようやく確定拠出年金(401K)をゼロからスタートしたところだ。トーマスさんの貯蓄は現在、推定10万ドル(約1480万円)ほどというが、これは、以前から推奨されている目標額を大幅に下回る。ファイナンシャルアドバイザーは、60歳までに年収の約8倍の貯蓄をしておくことを推奨している。 「宝くじでも当たらないかぎり、65歳でリタイアすることはできない」とトーマスさんはBusiness Insiderに語った。 「働けなくなった時には、娘に助けを求めるか、年金で足りない分を補う政府の援助が必要になるだろう」 トーマスさんだけではない。彼のような人たちを専門家は「シルバー・スコッター(silver squatter)」と呼ぶ。現在50代半ばで、X世代(1965~1980年頃生まれ)に当たる彼らは、引退まであと10年ほどしかないにもかかわらず、一部のベビーブーマー世代(1946~1964年頃生まれ)と比べると、準備が不足している。「スコッター(居座る人)」とは、そうした人の多くが、老後は家族の家に住まわせてもらわなくてはならない可能性があることを指している。 シルバー・スコッターの話としては、トーマスさんのケースはごく一般的だ。プルデンシャル・ファイナンシャル(Prudential Financial)が実施した調査によると、2023年時点で、55歳の人の引退後に備えた貯蓄額の中央値は4万8000ドル(約712万円)弱だった。35%は1万ドル(約148万円)未満、18%は貯蓄ゼロだ。 55歳世代の約3分の2(67%)は、老後に貯蓄が底をつくことが心配だと回答している。これは、プルデンシャルが2024年に実施した同調査において、どの年齢層よりも高い割合だ。なお、65歳世代が同じ回答をした割合は59%だった。 インスパイラ・ファイナンシャル(Inspira Financial)の引退準備・資産形成担当マネージングディレクターのピート・ウェルシュ(Pete Welsh)はBusiness Insiderに「全体として、彼らはベビーブーマー世代ほど準備ができていない。実際、ミレニアル世代(1981~1996年頃生まれ)に比べても十分ではない」と語った。とはいえ、X世代の最年少層は、まだ貯蓄で追いつく時間があるともウエルシュは指摘する。 この世代の準備不足は、計画を立て始めるのが遅かったことや、50代半ばの世代に固有の経済状況、さらには、彼らの金融リテラシーの低さに起因している可能性があると資産アドバイザーたちは指摘する。 テキサス州オースティン在住のルネさん(50)は、自分と夫が引退後、安心して暮らせるだけのお金があるのか、不安を抱いている。2人合わせて約38万ドル(約5640万円)あった老後の蓄えは、ルネさんが健康問題で働けず、2年間で複数回の手術を受けた結果、ほとんど底をついてしまったと、ルネさんはBusiness Insiderに語った。 請求書の支払いが滞ることもあるという夫妻は、引退後に受け取る予定の年金以外に、追加の経済的援助を受けられるかは分からない。助けを求められる親戚はおらず、娘に頼ることはしたくない。 ルネさんは、住宅ローンの提供者に対して、自宅の差し押さえをしないでもらえるよう頼んだ際のことを振り返りながら、「どうしてこんなことになってしまったのか、という気持ちだった」と語る。 「私たちとしては、とにかく働き続けて、お金を確定拠出年金に回し続けるしかない。今はそうするしか方法がない」