音声ガイド制作者が見た「朽ちないサクラ」 小さな所作一つ、視線一つで伝わる心情
私は映画の音声ガイド制作者です。今はスマートフォンやタブレットにアプリを入れておけば、イヤホンから音声ガイドを聞けるようになっています。メインユーザーは視覚に障害のある人ですが、どなたでもお聞きいただけるためリピート鑑賞の際に活用される方もいらっしゃいます。音声ガイドは、映像を言語化したものなので、映画を読み解く作業とも言えます。ここでは、私自身が音声ガイド制作に携わる中で見いだしたことに焦点を当てながら、作品案内を書いています。 【動画】交錯するそれぞれの〝正義〟「朽ないサクラ」予告編
視覚を使わない鑑賞者もしっかり楽しめる
今回の映画は「朽ちないサクラ」。前回の「違国日記」と同様、私自身が音声ガイドナレーションの原稿を書いたのではなく、サブとしてつきました。はじめに、試写室で拝見した時、犯人は誰なのか?というサスペンスの要素はしっかりありながら、男性性の強い刑事ものではなく、杉咲花さん演じる泉と親友の千佳(森田想)の心の葛藤が軸にあるシナリオ、そして音や音楽から伝わる部分もあって、視覚を使わない鑑賞者にもしっかり楽しめる映画だなという印象を持ちました。映画を鑑賞する際、冒頭20分くらい、目が見えていても、頭の中で新しい情報を処理しながら見るので、少し忙しいものです。この映画では、愛知県警と平井中央署という2カ所の警察署が出てきたり、泉は「広報広聴課」という部署で、警察官ではなく「職員」であることなどを、晴眼者(目が見えている人)が視覚から捉えて分かっている範ちゅうを逸脱して説明過多にならないよう、慎重に言葉を整理しながら、ガイド設計をしました。ただ、視覚障害当事者にモニターになってもらって、映画製作者と共にガイド原稿の確認をする場(モニター検討会)では、モニターさんたちは、難なく鑑賞していました。モニターさんにもっと混乱するかと思ったという旨を伝えたら、誰がどちらの人なのかがガイドされているから混乱はないですよ、という答えが返ってきました。これは、2カ所の似たようなオフィスで、背広の男性や事務服の女性が行きかっている映像を目で見ながら鑑賞すると、どっちがどっちだろう?と考えてしまって混乱が生じるのに対して、視覚情報がない分、音声ガイドユーザーの方がシンプルに見られているという、時折起きる現象です。人物の情報をきちんと把握できていれば、作品に集中できそうだなと感じられ、単なる杞憂(きゆう)で、まずは一安心でした。