「会社を継ぐ子が取引先で修行」は絶対ダメ/企業の事業承継を成功させる人物とは~入山教授インタビュー全4回の4回目
中小企業、特に同族企業の事業承継を成功させることが日本経済の鍵となっている。では、どんな人物が家業を継げば、事業が大ブレークする「第2創業」を起こせるのか。家業から遠い経験をした承継者がイノベーションを起こす、とする入山章栄早稲田大学大学院教授に、その理由を聞いた。 【動画】「知の探索」が事業承継成功の秘訣。入山教授インタビュー④
◆「両利きの経営」を出来るのは「遠くを見た人物」
――同族企業では、どのような人物が事業を承継すればいいのでしょうか。何か法則はありますか。 少し極論に聞こえるかもしれませんが、事業承継がうまくいくのは、お継ぎになる息子さんや娘さんが元々、継ぐ気がないパターンだと考えています。 ――えっ、本当ですか。 その方が絶対うまくいきます。なぜかというと、僕は経営学者として今の日本ではイノベーションが大事だと言い、イノベーションを生み出すには「両利きの経営(ambidexterity)」が重要だと指摘しています。 新しい知を探し出す「知の探索」と、新しい知を徹底的に深堀して収益化する「知の深化」とを両方使える「両利きの経営」が大切なのですが、特に必要なのは「知の探索」です。 新しいアイデアや創造性は、常に既存知と既存知との組み合わせで生まれます。 ゼロからは何も見出せない。ところが既存知と既存知を組み合わせる時に問題なのは、人間の認知能力です。 認知科学的な問題ですが、人間の認知能力には限界があり、その視界はどうしても狭くなってしまいます。 目も前のことしか見えないのです。 ――遠くのものは見えないのですね。 そうです。だから人間は所詮、目の前のものとしか組み合わせないのです。 それではイノベーションは生まれません。事業承継に悩んでいる会社には長い歴史があり、ずっと同じ業界で仕事をしている。 同じ場所にいると、目の前にある知と知ばかりの組み合わせをやっているわけです。 そういう会社ではイノベーションの組み合わせは尽きているので、イノベーションは生まれない。 自分から離れたところにあるものをいっぱい見ないといけないのです。 僕はそれを「知の探索」と言っていて、海外の経営学ではexplorationと言います。 ただ、この「知の探索」は学者が言うのは簡単ですけれど、やるのは大変です。遠くのものをいっぱい見なければいけません。