「会社を継ぐ子が取引先で修行」は絶対ダメ/企業の事業承継を成功させる人物とは~入山教授インタビュー全4回の4回目
◆家業の危機に戻ってくる「継ぐ気のなかった子供」
――親に帰ってこいと言われても、大手商社の方が良いと戻らない人がいるんじゃないかと思うのですが。 ほとんど戻りますね。家業なので、やはり背負っているものが僕たちとは違うのです。中には「俺はベンチャーの方がいい。家業は潰しちゃえよ」という子供もいるでしょうが、私が見る限りそんなに多くはない。 もちろん元々目がないなと思っている子供には親は声かけないですがね。 ――家業を連綿と続けることに親も子供も何らか価値を見出しているのでしょうか。 継ぐ気があってもなかっても、人間はロボットのようにゼロイチでは動きません。 お父さんとお母さんが自分の小さいころから一生懸命働き、資金繰りが苦しいときには頑張って乗り切った姿を見ているので、 助けてあげたいなという気持ちが頭のどこかにあるのでしょう。 だからこそ「こんなことは俺もやりたくねえ」と思って、ベンチャーに行ったり、大手企業に行ったりすることがあるわけです。 でも人間の心は、スパッとは割り切れない。 だから親に声かけられたら助けてあげたいと戻ってくるのではないかと思います。
◆「継ぐ気満々の子供」取引先で修業は絶対ダメ
――それなら親たちの姿を見て、「俺は家業を継いであげたい」というのはどうでしょうか。 それは一番良くないパターンです。 子供は継ぐ気満々で、親も継がせる気満々は一番良くありません。 結果として「知の探索」をやらないまま継がせることになるからです。 取引先にお子さんを修業に行かせるのは絶対にダメです。 ――なぜですか。取引先に修業に出すという例は多いように思います。 取引先は大体太いお客です。関係性があり、その内容もよくわかっている。 もう「知の探索」をする余地はありません。 ご両親は良かれと思って、取引先に顔を売ってこいと修業に出すのですが、何一つ遠くの知見は得られず、会社はほとんどうまくいきません。それは「知の深化」でしかなく、取引先と強固な関係を維持しているだけだからです。 今の時代はイノベーションを起こさないと生き残れません。 取引先が潰れたらおしまいですからね。 まさにそういうことが、今、日本中の中小企業で起きているのです。 それよりは家業と全然関係がない遠いところに行って、いろんな「新しい知」を見てきて、新しい事業を始めることがとても重要なのです。