「2024年春ドラマ」オススメ5作を発表 “多彩な品ぞろえ”で起こった“春の異変”とは
■傾向[2]過去の事件、謎の死、記憶喪失…かぶりまくる春の異変 今春ドラマは、前述したようにジャンルのかぶりはほぼない一方で、“不穏な設定”はかぶりまくっている。 過去の事件は『アンメット』『Destiny』『ブルーモーメント』『アンチヒーロー』『ACMA:GAME』など、謎の死は『Destiny』『ブルーモーメント』『Believe』『Re:リベンジ』『ACMA:GAME』など、記憶喪失は『366日』『アンメット』『くるり』『9ボーダー』など。ネット上には序盤から「また?」「なぜ?」「安易では」などの戸惑いや疑問の声もあがっている。 これらの不穏な設定はミステリーとして連ドラの1クールを貫く“大テーマ”に直結させられる上に、登場人物の人生を劇的なものに変えられる即効性の高いもの。シンプルな脚本・演出だけに視聴者に理解されやすく、序盤から幅広い世代からの興味を引きつけられる。 いずれの設定も視聴者に「自分にも起こりうることかもしれない」と思わせられるギリギリのライン。振り返ると前期は「ありえない」が前提のファンタジー作が6作も放送されていた。つまり、前期は「ありえない」ファンタジー、今期は「ギリギリありえるかもしれない」不穏な設定という傾向で各局が一致した様子がわかるのではないか。 不穏な設定はクライマックスに近づくほど、事件の核心に迫り、死因の解明が進み、記憶が戻るなど物語が大きく動き出し、盛り上がりを増していく。その意味で中盤から終盤に向けてネット上をにぎわせそうな作品がそろったのは間違いない。
これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『からかい上手の高木さん』『Destiny』の2作。 『からかい上手の高木さん』は、漫画とアニメの世界観を大切にしつつも、甘酸っぱく切ないムードを加速させ、子どもから大人まで万人が楽しめるドラマとして昇華。月島琉衣と黒川想矢のみずみずしい表情を引き出す今泉力哉監督の演出も出色で、「決して永野芽郁と高橋文哉を立てて公開を控える映画版の前座ではない」というクオリティを見せている。 『Destiny』は、「20年の時をめぐるサスペンス×ラブストーリー」という壮大なコンセプトに挑むスタッフの意気込みに俳優たちが呼応し、映像から現場の熱が伝わる作品に。大学時代の長野と現在の横浜を描き分けて飽きさせない脚本・演出は巧みで、「最終回に向けて盛り上がる」という連ドラの醍醐味を最も感じられる作品になりそう。 その他では、『ブルーモーメント』は、原作漫画をテレビドラマ向けにエンタメ化した脚色で大衆に訴えかけられる王道の仕上がり。『おいハンサム!!2』は、続編でもエピソードのセンスと芝居の密度は落ちず高水準をキープ。『アンチヒーロー』は、長谷川博己の法廷シーンだけでも見応え十分で、謎を効果的に生かした脚本やPRも巧み。 「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局の動画配信サービスなどでチェックしてみてはいかがだろうか。 ■2024年 春ドラマおすすめ5作 No.1 からかい上手の高木さん (TBS 火曜23時56分) No.2 Destiny (テレ朝 火曜21時) No.3 ブルーモーメント(フジ 水曜22時) No.4 おいハンサム!!2 (東海テレビ・フジ 土曜23時40分) No.5 アンチヒーロー (TBS 日曜21時) ■ 木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。
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