最新の台湾ヒット映画『夏日的檸檬草(原題)』。まっすぐな青春ラブストーリーの奥にある「愛情」の真実
近年台湾で話題になった選りすぐりの映像作品を、国内の劇場で鑑賞できる台湾映画ファン待望のイベント「TAIWAN MOVIE WEEK 2024」が今年も開催決定! 10月17日(木)~10月26日(土)まで、東京ミッドタウン日比谷を中心に、TOHOシネマズ 六本木ヒルズ・池袋ほかのスクリーンで無料上映される。 【写真】主人公のワン・シアオシアを演じた女優のムーン・リー 本記事では10月17日(木) TOHOシネマズ 日比谷にて上映予定の『夏日的檸檬草(原題)』を紹介する。イベント当日は、本作に出演する人気俳優・曹佑寧(ツァオ・ヨウニン)のトークショーを開催。台湾映像ならではの魅力や上映作品の見どころなどが語られる予定だ。 ■大人気ウェブ小説の実写映画化 気恥ずかしいほどストレートな青春ラブストーリー。しかし、その核心には「愛情」なるものの真実味がたしかに流れている――。 映画『夏日的檸檬草(原題)』は、台湾の小説家・瑪琪朵(マキアート)による人気ウェブ小説が原作。シリーズ累計で400万人以上が読んだといわれ、韓国やタイなど世界各国に版権が販売された人気作だ。その実写版となった本作は、台湾で2024年8月2日に劇場公開され、興行収入3000万台湾ドルを突破した、まさに「最新の台湾青春映画」だ。 主人公のワン・シアオシア(ムーン・リー)は、フランス語やスペイン語を駆使しながら日々忙しく働いている。ある夜、翌日に結婚式を控えた高校時代の友人から、シアオシアのもとに電話がかかってきた。どうやら結婚式には、10年前、シアオシアが恋していた“転校生”も出席するという。 高校時代のシアオシアは、幼馴染の“ユズ”ことヤン・ゾンヨウ(ロウ・ジュンシュオ)と大の仲良しで、周囲から「夫婦」とからかわれる仲だった。それもそのはず、両親のいないユズはシアオシアの家に入りびたり、2人は毎日の食事をともにする関係なのだ。 ところが、いつものようにシアオシアとユズが学校でケンカをしていると、そこに台湾最難関といわれる「建国高校」からの転校生チョンイー(ツァオ・ヨウニン)が現れた。無口で容姿端麗、文武両道のチョンイーにたちまちシアオシアは惹かれていく。 シアオシアは覚えていないが、じつはチョンイーとシアオシアは幼いころに出会っていた。少しずつ互いの距離が縮まるなか、ひょんなことからチョンイーはその過去を思い出す。長らくシアオシアに思いを寄せているユズにはいずれにせよ面白くない展開だが、所属する軽音楽部の先輩シンフイはひそかにユズに恋心を抱いていた。 それぞれの思いがすれ違うなか、軽音楽部のライブの日が近づく。ユズとシンフイはバンドの出演者として、シアオシアは司会者としてステージに立つのだ。その日、彼女たちの恋は大きく動きはじめる……。 ■ラブコメディから深みのあるテーマへ 映画の前半は、いまや日本でもあまり作られなくなった、通称「キラキラ映画」を思い出すベタベタな学園ラブコメディだ。ドタバタするヒロインと幼なじみ、イケメンの転校生、クールな先輩、騒ぎ立てるクラスメイトたちの日常が、ちょっぴり大げさな演出で展開する。大人の観客にとってはやや恥ずかしくなるところかもしれないが、工夫の効いた撮影とリズミカルな編集、そしてどんなギャグやシチュエーションも正面から演じきる俳優陣の演技が映画を引っ張ってゆく。 むろん、前半のコメディタッチはその後の「フリ」である。中盤からくっきりと立ち上がるのは、シアオシアとチョンイー、ユズの3人が織りなす瑞々しい恋模様だ。シアオシアは恋を成就させるため突っ走るが、チョンイーにも彼なりの思いがある。ユズは、シアオシアに想いを伝えることで友情が失われるのではないかと静かに思い悩む。 興味深いのは、シアオシアとチョンイーの過去をめぐる物語の合間に、認知症を患ったチョンイーの祖母と、彼女を介護する祖父のエピソードが挿入され、「愛情」と「忘却」というサブテーマを浮かび上がらせることだ。映画のメインはシアオシアとチョンイーだが、長年の愛情を育んできたシアオシアの両親をはじめ、チョンイーに一方的な感情をぶつける母親、チョンイーと愛犬・シロとの関係など、物語の中ではあらゆる角度から「愛とはなにか?」が問い直される。 愛とはいかなる覚悟で臨むべきものか、もしも自分の愛が敗れたときにはどうすればいいのか……。ベタでまっすぐでかわいらしい、若者の青春恋愛物語にコーティングされたその真実味が本作の味わいだ。たとえ少女漫画的なラブストーリーに乗れなかったとしても、どこかにきっと自分の知っている感情がある。 ■台湾の気鋭監督と豪華俳優陣のコラボレーション 監督・脚本はライ・モンジエ。日本でも話題を呼んだドラマ『暴走外科医がやってきた』を手がけ、“台湾版エミー賞”こと金鐘奨で長編ドラマ作品賞・監督賞を受賞したほか、近年さまざまなテイストの恋愛映画を発表してきた。今回はウェブ小説が原作ということもあろうか、同じくウェブ小説出身のギデンズ・コー作品(『あの頃、君を追いかけた』『赤い糸 輪廻のひみつ』など)を思わせるテイストと演出に挑んでいる。 登場人物に説得力を与えた俳優陣にも注目したい。シアオシア役は『次の被害者』や『青春弑恋』などシリアスな作品で知られるムーン・リー、チョンイー役は『KANO 1931海の向こうの甲子園』のツァオ・ヨウニン。ユズ役は、ボーイズグループ「W0LF(S)」やラップグループ「CHING G SQUAD」のメンバーであるロウ・ジョンシュオが演じた。高い演技力によって話題作への出演が相次いでいる注目株で、本作では主題歌の歌唱も担当している。 そのほか、シアオシアの両親役で『悪女』や『1秒先の彼女』のリン・メイシュウ&ファン・クァンヤオ、チョンイーの祖父役で『オールド・フォックス 11歳の選択』のバン・ティエシャン、教師役で『流麻溝十五号』のマリオ・プーら台湾の実力者が集結。今後が注目される若手たちとのアンサンブルが、映画としての強度をより高めることとなった。 文/稲垣 貴俊