対戦国の国歌にブーイング......僕がイングランド人を心底恥じる瞬間
対戦チームが友好国でも小国でも無差別に
それでもブーイングは続き、ほとんど無差別にどこが相手でも起こっている。例えば、ウクライナ侵攻への非難を表明する手段としてロシアを侮辱する、というようなものではない。友好国の国歌にも同じようにブーイングするし、地政学的にも競技上でもライバルではないような小国の国歌でもそうする。 しばらく連絡を取っていなかったドイツやイタリア、デンマークの友人が、僕がサッカー好きと知っているし、もうすぐ互いの国が対戦するから、ということでメールを送ってきてくれたりすると、たまらなく申し訳なくなってしまう。僕は、前もって謝っておくことを覚えた。 4年前も僕は、試合後に謝罪しなければならなかった。イングランドがドイツに快勝したのだが、イングランドファンがドイツのファンに繰り出したヤジや嘲りに、ドイツの少女が涙を流す様子がカメラに撮られてしまったからだ。「悪い敗者」は十分悪いが、「悪い勝者」は絶望的だ。 これはスポーツの本質から完全に外れている。対戦国同士は、友好的な、いや、お祭りムードの競争の精神で向き合うのだ。イングランドのファンは、対戦する全ての人々を侮辱することで、自分自身をおとしめている。
コリン・ジョイス(本誌コラムニスト)