イチからわかる「シェールガス革命」
いま、アメリカを発信地とする「シェールガス革命」が、世界のエネルギー業界に激震をもたらしています。注目を集めるシェールガスの画期性とは?
シェールガスが注目される理由
シェールガスとは、頁岩層(けつがんそう)と呼ばれる地下2000~3000mの地層から採掘される天然ガスのこと。従来は、比較的浅い地層にある一般的なガス田と比べて生産コストが高くつき、採算が合わないとされてきました。しかし2000年代に入ってから、岩盤に高圧の水と化学薬品を注入し割れ目をつくる「水圧破砕」の技術がアメリカで進歩したことなどにより、生産コストが劇的に低下。一躍、将来有望なエネルギー源として脚光を浴びることになったのです。 シェールガスは北米、南米、中国、ヨーロッパなど世界各地で埋蔵が確認されています。アメリカのエネルギー省エネルギー情報局の2011年の調査によると、国別の採掘可能な資源量は中国が1275兆立方フィート、アメリカが862兆立方フィート、アルゼンチンが774兆立方フィートなどとなっています(いずれも推定)。2009年の世界の天然ガス総生産量が106.5兆立方フィートですから、シェールガスの資源量は膨大といえます。世界のエネルギー事情を激変させる可能性を秘めていることから、「シェールガス革命」という言葉が生まれました。 このように期待が高まる一方で、採掘による環境汚染も懸念されています。アメリカでは、水圧破砕に用いられる化学薬品で地下水が汚染されるとして、住民による抗議活動が発生。2012年には、オノ・ヨーコさんと息子のショーン・レノンさんらが水圧破砕に反対する団体を立ち上げ、話題になりました。またドイツでもビール醸造業者らが地下水汚染への懸念からシェールガス採掘に反対するなど、各地で議論を呼んでいます。
日本のエネルギー政策を左右する
日本は現在、欧米諸国よりも高い価格で天然ガスを海外から輸入しており、電気料金高騰の原因のひとつになっています。もしアメリカから比較的安価なシェールガスを輸入できれば、原発の稼働停止でエネルギー供給に不安を抱える日本にとって朗報です。 5月17日、アメリカのエネルギー省は日本への液化天然ガス輸出を初めて承認しました。審査中の他の開発計画もすべて承認されれば、日本の天然ガス輸入量の2割近くがアメリカ産になると想定されます。実現すれば日本経済に大きなインパクトを与えるでしょう。 天然ガス大国・ロシアの動向も注目されます。ロシアはこれまで、ヨーロッパ諸国を最大の天然ガス輸出先としてきました。しかアメリカのシェールガス増産により、対アメリカ輸出をあてこんでいた中東産の天然ガスがヨーロッパへ流れ、そのあおりを受けてロシア産の天然ガスはシェアを落としています。このため、ロシアは新たな大口輸出先として日本に注目しており、このことがプーチン大統領の日本重視の姿勢につながっていると見られています。4月29日の日露首脳会談では、両国のエネルギー分野での協力が共同声明に盛り込まれました。こうしたロシアの動きは、北方領土問題の交渉にも影響を与える可能性があります。 日本はこれまで、石油や天然ガスの大半を中東諸国に依存してきました。エネルギー調達先を多元化できれば、資源国に対して価格交渉力を得ることができ、安全保障上も有益です。シェールガスをめぐる各国の動向が、今後の日本のエネルギー政策を左右する重要な鍵となりそうです。