多くの人が知っているようで知らない「銀行業界」の深刻すぎる危機
実店舗は「高級サロン」のように
こうした動きは銀行だけでなく金融業界全体に広がっている。大手証券会社もインターネットサービスの台頭に押されて実店舗の再編に乗り出した。今後の実店舗は、利益を上げる「最前線基地」から、上客との関係を深めるための「高級サロン」のような場所へと変わっていくことだろう。 かつては駅前一等地に銀行の看板が立ち並ぶといった光景が当たり前だったが、いまでは銀行の支店はオフィスビルの上層階にひっそりと収まっていて探すのに一苦労するケースも少なくない。銀行や証券会社の窓口に出向くことはめっきり減ったという人も少なくないだろう。 政府はキャッシュレス化を推進しており、国内の現金流通は激減していくものと見られる。メガバンクがATM網を維持するのに年間2兆円ほどかかっているとも言われているだけに、インターネットサービスへの移行は既存銀行にとっていつかは着手しなければならない課題であった。 余談だが、銀行などの金融機関が繁華街やビジネス街から撤退すると、地価にも影響する。 通行量の多い道路に面する店舗物件は確実な集客が見込めるとあって、その地域のビル賃料をリードしてきたためだ。主要交差点や駅を取り囲む大型ビルの一階というのは、高い賃料を支払える銀行や証券会社、保険会社などが長期契約するというのが定番であった。 こうした金融機関が支払ってきた賃料と同水準の支払いができる別業種が即座に見つかればよいが、入居者がなかなか決まらないエリアでは賃料が下がり、街の風景まで変わる可能性がある。それは、周辺地域の地価にも波及していくことだろう。 一方で、実店舗の削減は、窓口業務など内勤の仕事を担っていた従業員の多くが不要になるということだ。金融機関としては支店運営費用の縮減もさることながら、従業員のリストラこそがコストカットの本丸である。 こうした部署の余剰人員を営業やコンサルティング業務などにシフトさせているのである。だが、窓口業務などで働いていた人が、急に営業の最前線や、専門知識を求められるコンサルティング業務に異動となったならば対応できない人も出てくる。 型にはまった仕事とは異なり、経験とセンスが問われる。研修を受けたからといってすぐに戦力になるわけではない。このため、辞職する人が後を絶たない。 つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、「ポツンと5軒家はやめるべき」「ショッピングモールの閉店ラッシュ」などこれから日本を襲う大変化を掘り下げて解説する。
河合 雅司(作家・ジャーナリスト)