三菱地所、ビルの屋上でミツバチを飼育 街の価値高めてテナント誘致
ビルの屋上でミツバチを飼う都市養蜂が企業の間に広がっている。三菱地所はハチミツを科学分析し、街の生物多様性向上に生かす。 【関連画像】「丸の内ハニー」を使ったロブションのパウンドケーキ(写真=日経ESG) 都市のビルの屋上でミツバチを飼う都市養蜂がじわり広がっている。2030年までに自然の損失を減らし、増加に転じる世界目標「ネイチャーポジティブ」の達成が求められる中、自然資本が少ない都会でもネイチャーポジティブに貢献できる活動として養蜂が再注目され始めた。 ミツバチは植物の花粉を媒介して再生産を助けるとともに、花の蜜の量や質は街の生物多様性の豊かさを表す指標になる。緑化と養蜂、ハチミツの採取は、地域でできる生物多様性の保全と利用の活動といえる。 東京の大手町・丸の内・有楽町(大丸有)地区では三菱地所が地域の企業と連携し、日本工業倶楽部会館や新東京ビルの屋上などで16年から養蜂を始めた。年間最大40万匹のミツバチを飼育。4~8月の2週間に1度、大丸有地区の企業が活動に参加してきた。当初からの丸ノ内ホテルやデロイトトーマツグループに加え、24年にはザ・ペニンシュラ東京やアマン東京も新たに参加した。24年の延べ参加人数は200人以上、採れたハチミツは550kgに上った。
地産地消をアピール
三菱地所が場所を提供し、NPO「銀座ミツバチプロジェクト」が技術を指導、参加企業が協賛金を払う。各社の狙いは様々だが、共通するのは養蜂を通じた地域のコミュニティ作りと、自然と共生する街という地域ブランド価値の創出だ。デベロッパーにとってはテナントの誘致など不動産価値の向上に、ホテルや外食にとっては集客につながる。実際、大丸有地区は自然豊かな環境都市というブランドが企業の誘致に一役買っており、24年の事業所数は5000と、14年の4300から16%増えた。 養蜂活動を自然と触れ合う機会と捉え社員のウェルビーイングに生かす企業もあれば、食材の地産地消をアピールする企業もある。高級洋菓子店ロブションは「丸の内ハニー」を使ったパウンドケーキを商品化。東京土産として人気があるという。 三菱地所は今夏から、養蜂を通して街の生物多様性向上の効果を科学的に分析する試みを始めた。皇居や日比谷公園を擁する大丸有地区には4m以上の高木が約4500本あり、うち約750本が三菱地所関連物件にある。「ハチミツに含まれる花粉をDNA分析し、採蜜日ごとに花の種類と量を割り出して今後の植栽計画に生かす」(丸の内ハニープロジェクト事務局を務める三菱地所の松井宏宇氏)ことで街の価値を高める考えだ。自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)開示で指標や多様性を高める目標を定量的に示せれば、投資の呼び込みにもつながる。 (「日経ESG」2024年10月号の記事を基に構成)
藤田 香