オードリー・タンが都知事選候補のなかで注目している「開成東大卒の天才AIエンジニア」の正体
選挙をオープンソースに
一方で、現職の小池都知事もテクノロジー支援、スタートアップ支援を公約に掲げてきた。たとえば6月13日には、自身のXアカウントで、生成AIで作成したという「AIゆりこ」の動画が投稿された。小池都知事にそっくりのAIが、これまでの都政の取り組みを紹介している。 安野に「AIゆりこ」について尋ねると、都知事みずからがAIの可能性をアピールする取り組みには一定の評価をしつつも、こんな答えが返ってきた。 「AIゆりこは、小池氏の信条を一方的に語っているにすぎません。これは“ブロードキャスティング”であって、テレビや新聞などの従来のメディアと大きな違いがありません。テクノロジーを使えば、双方向性──これを科学技術の世界では“ブロードリスニング”と呼びます──を担保できるのです。つまり、都民の皆さんの声を、文字通り聞いて、反映することができるのです」 安野がおもむろにMacBookを取り出すと、画面の中には彼にそっくりなアバターがいた。「経済政策について教えて」と打ち込むと、しっかりと答えてくれる。 「私の政策や政治信条をAIで学習させています。どんな質問でも答えられますし、要望も受け付けられます。これで、選挙期間中は、24時間いつでもわたしと政策についてお話しすることができます」 マニフェストづくりも画期的だ。エンジニア向けのシステム「GitHub」を用いて、GitHubのアカウントさえあれば、政策への「変更提案」を送ることができるようにした。 これらのキャンペーンに使ったプログラムは、すべて選挙後にオープンソースで無料で公開する予定だ。今回の安野の出馬をきっかけに、出馬と選挙活動のノウハウが誰でも使えるようになる。まさに「選挙のオープンソース化」というわけだ。 「今後、あらゆる選挙で、どんな候補者でも有権者とともにマニフェストを改善することができるようになります。こうして、私は選挙のやり方それ自体をアップデートさせたいのです」 今回の選挙は、これまでのしがらみ政治を打破する一歩になるはずだと、安野は強調する。 「問題の本質は、政治における投票や政策形成のシステムが100年も前につくられたもので、アップデートが必要だということです。皆さんが使っているスマホはどんどん進化していっているのに、政治の世界だけがアナログなままでいる。もちろん、アナログのよさも理解したうえで、テクノロジーを導入することで、もっと政治をアップデートできると思うのです」 初出馬ながら“注目株”となった安野。「オードリー・タンがいる台湾がうらやましい」──そんな思いは、もはや過去のものになるかもしれない。 オードリー・タン「大臣になって一番大変だったのは心に侵入するウイルスに対処すること」
COURRiER Japon