「ママ大好き」勉強嫌いの中学受験、家中荒らした息子がご機嫌になった切ない理由
体育実技が入試に組み込まれている慶応普通部
学校に通わなくなる1月は、どうしても子どもの体力が低下しがちだ。勉強の合い間に公園に行く時間を増やしたのは、運動不足解消や気分転換のほかに、慶応普通部では体育実技が入試に組み込まれているからだった。 「去年は、こんなの簡単にできてたんだけどな」 公園で孝多がまず取り組むのは、鉄棒や縄跳びの練習だ。逆上がりは身体が重くなったからか、足が上がらない。何度か練習して感覚を思い出したようだが、お腹の肉を挟んでしまい、大声をあげて倒れ込んだ。 「大丈夫か?」 「どうしても挟んじゃうんだよ」 体重を支えようとすると、ふくらんだお腹が邪魔するのだろう。痛いと叫んでは、情けない自分の姿に笑いが止まらなくなり、いつまでたっても練習が先に進まない。 縄跳びは、二重飛びをするのもやっとだ。二回ほどは勢いで回すものの、その次が続かないのでごまかした感じになってしまう。これなら得意だよといって、後ろ交差飛びを何度も繰り返していた。 市販されている受験対策本によると、実技で大事なのは、先生の指示を聞く態度やあきらめないで最後まで頑張る姿勢だという。自分ができないくせに、ほかの生徒の失敗を笑いの種にする癖があるのは要注意だ。
「ちょっとだけ一緒に遊びたい」
実技対策が一段落すると、大好きなバッティング練習だ。しかしこの日は、小学生がサッカーをしているのが気になって仕方ない。 「パパは先に帰っててよ」 「同じ学校の子か?」 「受験しない6年生だよ。ちょっとだけ一緒に遊びたい」 孝多の言葉に、ぼくは即答できなかった。今日の勉強はいいペースで進んでいるが、孝多は一度遊びはじめるとすぐに止められない。受験前になっても、帰ると約束した時間を守らずに遊んでいたことは何度もある。テスト1週間前になって、受験しない子どもたちと遊んでいていいのだろうか。 しかも携帯電話を持って来なかったので、連絡をしようにもできない。孝多は30分間だけと約束したが、それでは短か過ぎるだろう。1時間ほど待って、帰ってこないようであれば迎えに来よう。そう思ってぼくだけ先に帰ることにした。 1時間が過ぎても、孝多は帰ってこなかった。やはりダメなのだろうか。好きなことをはじめると、ほかのことが頭からすっぽり抜け落ちてしまう性格は昔から変わらない。1時間20分が過ぎると、ぼくは自転車に乗り、ゆっくりと公園に向けて出発した。