どうなる広島の新スタジアム問題
同時に発表した新スタジアムのデザインは、アウェー側のゴール裏の一部を吹き抜け状態にして、原爆ドームが見える設計となっている。サッカーを介して世界へ平和を訴えていきたいという思いを、広島の森保一監督もことあるごとに発信している。 ゴール裏の一部スタンドを除去したことで、収容人員は当初より少ない2万5000人とした。これに対して、行政側は「国際大会の誘致が優位」として3万人規模が必須だと主張する。 同規模のスタジアムを旧市民球場跡地に建設する場合、周囲の景観を損なわない高さとするために、100億円近い掘り込み作業費が発生するとも指摘。前出の建設費260億円の根拠のひとつにあげていた。 しかし、広島側からの質問に対する日本サッカー協会からの4月4日付の回答が状況を一変させる。 「収容人員2万5000人と3万人は、どちらもJFAのスタジアム基準でいう『クラス1』(2万人~4万人)に属しているので、なでしこジャパン、五輪、ユース年代などの日本代表、AFC主催の国際的な競技会を開催または誘致することは可能と判断します」 3万人にこだわる根拠が崩れたうえに、回答書にはスタジアムの立地条件として都市中心部で公共交通機関や主要幹線道路からのアクセスが良好で、国際大会誘致にはホテルや商業施設が近接していなければならない、と記されてもいた。 広島側は指定管理者となることで、試合開催日以外にもクラブが主導する形で新スタジアムを稼働させるプランも描いている。しかしながら、行政側の聞く耳をもとうとしない態度は、湯崎知事が発した「理解に苦しむ」というコメントからも察することができる。 候補地発表が白紙となったのも、港湾地区の物流業者がつくる「広島みなと振興会」が慢性的な渋滞がさらに悪化し、県内経済に重要な影響が出ると強く反発したためだ。調整もなしに「優位」と発表した点に、「広島みなと公園」ありきの議論が伝わってくる。 原爆ドームの近くで、野球はよくてもなぜサッカーはダメなのか。行政側が望む新スタジアムは、試合が行われる20日間ほどを広島へ貸し出すだけの巨大な箱モノと化すのか。周辺の商業施設建設を含めた、巨大な利権が絡む再開発構想とも関係しているのか。 飛び交う疑問や不信感を解くためにも、久保会長はクラブを交えた四者による協議を提案。新スタジアムの意義や建設費の捻出方法などを徹底的に議論したいと希望しているが、県、市、商工会議所は難色を示したままの状況が続いている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)