東京女子プロレス・上福ゆき「アンチばかりで悔しかったから続けてきた」
◇ブレない姿勢で勝ち取った王座のベルト 周囲の目と闘いながら、上福ゆきはプロレスラーとして進化していく。たくさんの技を持っているわけではないが、その長い脚を活かしたビッグブーツやフェイマサーは説得力抜群だし、なによりも華がある。彼女のすごいところは、そこで無理に技を増やしていかずに、自分にあった技を磨きながら、試合の精度をあげていったところだ。 「私にとってプロレスとは勝ち負けよりも“見てくれ”だから。昨日よりもほんの少しでも綺麗なドロップキックを打てたら、なんなら勝てなくてもいい、そのぐらいに考えていましたね。もちろん、強くなるためには、筋肉をつけるようなトレーニングをたくさんすればいいんだけど、筋肉がいっぱいついた“強い上福ゆき”はけっして求められていないと思うんですよ。 今のスタイルを維持したままで、プロレスラーっぽくない衣装で闘う。それこそが私じゃなくちゃいけない理由だと思う。そのあたりはポリシーを持ってやってきました」 ブレない闘いっぷりは、いつしかファンにも認められ、インターナショナル・プリンセス王座のベルトも巻いた。そして、2023年の夏に開催されたプリンセストーナメントでは、なんと決勝戦まで進出。 一発勝負のトーナメントでは、うまいこと風に乗った選手があれよあれよと勝ち抜くことが多々あるが、上福ゆきの場合、1試合ごとにファンの声援が大きくなっていき、その声援を背に受けて、どんどん勝ち抜いていったイメージ。まるでオセロのように、デビュー時にはアンチしかいなかった客席が「かみーゆ、がんばれ!」と声援を贈るように反転していった。 そのクライマックスが、後楽園ホールで行なわれた準決勝だった。この勢いで勝ってしまうかも! というムードがある反面、さすがにここで負けてしまうだろう……という空気も漂っていた。 そこで見事に勝利を収めたことで後楽園ホールは大熱狂、大爆発! 試合後、延々とリング上で大演説を繰り広げる上福ゆきの言葉に観客は納得、共感。惜しくも優勝は逃したものの、上福ゆきが真のピープルズチャンピオンになった瞬間だった。 「やっと、つかみ取りました。でもね、アンチを全員、ファンにするなんてことはムリだわ。どれだけひっくり返しても、新しくアンチは生まれてくるから、キリがねぇ(苦笑)。それはもう諦めた!」 ひとつ気になるのは「これから」だ。プロレスラーに憧れて、この世界に入ってくる人たちには、チャンピオンになりたいとか、こういう選手になりたい、という明確な目標がある。だが、上福ゆきはプロレスラーに憧れてきたわけではない。 「たしかにそういう欲はないかもしれない。鹿とか大きな動物って、最後は小さい生き物に肉とか内臓を全部、食べられて土に還っていくけれども、それが私にとっての理想。若い選手に私の良いところをどんどん盗んでいってもらって、そのまま消えていけたらいいですよね。 引退セレモニーとか派手に見送ってもらうのは私の性格では、ちょっと苦手なので、ある日、突然いなくなって、しばらくしてから“じつはもう引退しました”みたいな形がいいかも」 ◇引退後は誰かのためになることをやりたい カッコよすぎるが、さすがにそれはファンも悲しむだろう。もちろん、引退はまだまだ先の話なのだが、すでにプロレス引退後のサードキャリアは考えているのだろうか? 「誰かのためになることをやってみたい。もうね、プロレスラーになって一生分、人を蹴りまくったので、引退したら優しいことをやりたい。たとえば、お年寄りと動物が一緒に寄り添えるような施設を作れないかな、とか。昔の私のように、大きくて悩んでいる女の子に勇気を与えたいな、とか。プロレスをやることで、人のことを思いやったりだとか、これまでの私に欠けていたものをたくさん補完できたような気がします」 昨年11月には初の写真集『脚罪』(SW刊)をリリースした。リングでは見られないような姿も満載で、まさに彼女の魅力がすべてパッケージされたような一冊になっているが、こういう作品を見ていると、まだまだ「表現者」として、幅広い活躍を見せてもらいたいとも思う。 「うーん、どうなんだろう。そういう場がなくても、私の場合、たとえばファミレスでバイトを始めれば、誰にもマネできないような料理の運び方とかで、効率よくオリジナリティーあふれる輝き方ができると思うから(笑)。 あ、うれしかったのが、中学生の子が私に憧れて東京女子プロレスに入門してくれたんですよ! 私みたいな感じの子がプロレスをやってもいいんだって、そう思ってもらえたらいいなと思ってきたから、憧れられるのは光栄じゃないですか。で、私のどこに憧れたのか聞いてみたら“ママに似ているから!”だって、アハハハ! ファンじゃない人が冷静に私の試合を見てみたら、きっと“30歳すぎて、一生懸命、受け身をとって、よくやるよ”と映るのかもしれないし、そんな姿を見て“よしっ、明日も朝から会議があるけど、私もがんばろう!”と思ってもらえるかもしれないし、何かを諦めてしまった人を“もう一度、動かすことができたらな”って。まだ女子プロレスを見たことがない人たちが、ちょっと見てみようかな、と思ってもらえるきっかけとして、まだまだ東京女子プロレスのリングで輝いていきたいですね」 多種多様なスターが輝きを放つ令和の女子プロレス。一度、上福ゆきの生きざまを知ったうえで、彼女の試合を生で見ていただきたい。昭和や平成には存在しなかった、新しい女子プロレスのカタチがそこにはある。 (取材:小島 和宏)
NewsCrunch編集部