格差コンビ麒麟の田村裕。『ホームレス中学生』の大ヒットはマイナスも大きかった
◇仕事が減って川島だけが出るようになった どんどん本が売れていき「鼻も伸びていった」という田村。その一方で、これまでとは別の土壇場を経験することになる。 「とにかく、いろんな人に“お金を貸してくれ”って言われて。ほんまにお金を貸した同級生もいました。そういうヤツに限って、こっちはなんも言ってないのに、向こうが勝手に気まずくなって離れていく。あと、どこから情報が漏れてるのかわからないですけど、“マンション買いませんか”とか、家に不動産投資の人が勧誘しに来るんですよ。これは怖かったですね。 まあ、そういう勧誘だけだったら許せたんですけど、とどめに『笑学校』っていう養成所から、“うちのスクールに通いませんか”っていう勧誘が来て。僕はプロのつもりでテレビとかでしゃべってたんですけど、“素人だと思われてたんや……”みたいな、めちゃくちゃ腹立ちました」 周りが変化していく状況でも、「自分にはお笑いがある」ということが活動の支えだったという。これさえちゃんと続けていれば……そう思っていたが、徐々にお笑いの仕事も減ることになる。 「本が売れる前から、お笑いの仕事だけでも生活はできていたので、この本で忙しくなった分は上積みだと思ったんですよ。お笑いで貰えている仕事は今後も変わらない、と。だけど、いろんな先輩たちからは、絶対いつか反動が来る、これから先が大変になっていくよって、言われてたんです。 そしたら、本当にじわじわと仕事が減って、川島だけが出るようになって。貧乏話ばかりしていた僕は、同じステージに立てなくて置いてかれてしまったんです。その状況はかなりきつかったですね。自分にはずっとお笑いがあると思ってたけど、違ったんだって。振り返ってみれば、自分がサボっていただけなんですけどね」 コンビとしての格差が広がるなかで、特にきつかったのはSNSでのコメントだった。「田村だけ見いひんな。あいつ今何してるんだろう」「死んだんちゃうか」……そんなコメント見かけることが増えていった。 「文字で見ると余計に傷つくんですよね。向こうは10%ぐらいで言ってることでも、こっちは200%ぐらいで受け取っちゃうんで。それを見るたびに傷ついてました」 ◇吉本史上最大の格差コンビ「麒麟」 それでも田村は、一歩一歩、自分のペースで前に進み続けている。 「落ち込むだけみたいな時期もあったんですけど、もはやこれだけの差がつくと諦めもつくというか。“吉本史上、最大のコンビ格差ちゃうんか”と言われてるんで、ここまできたら、“いや、俺だって麒麟やで!”と言ってたってしょうがない。 むしろ、自分が一人でもできることはなんなんやろうって、改めて考えるきっかけにもなりました。周りの芸人たちみたいに立派なことはできなくても、身の丈にあったことをやっていこう、地に足つけて一歩ずつ進んでいこうと決めました」 自分にできることを探した田村が始めたのが、インスタグラムでの生配信。 「川島はテレビでちょっとしゃべったことでも、全部ネットニュースに上がる。もう“麒麟”じゃなくて、一人でがんばってきた“うさぎ”だとかも言われて。だけど、僕は諦めないということだけが得意やったなって思い出したので、諦めずにがんばってみようと毎日配信を始めました」 この生配信も、すぐに軌道に乗ったわけではない。そこそこ知名度のある芸人であれば、200~300人はパパっと集まって、すぐにイイ感じになるって思っていたそうだが、配信を開始した初期の視聴者数は5~6人。時には0人になることもあった。 それでも「とりあえず継続だけはしよう」と、毎日配信を続けていたところ、別の機会が巡ってくる。 「諦めずに発信し続けていたことで、いろいろな動きが出てきて、ピンネタライブをやることになったんです。去年、第1回をやったんですけど、思っていた以上にお客さんが集まってくれて、60人ぐらい来てくれたんです。それで先日、第2回もやらせてもらいました。 25年間、僕一人でネタをやったことなんてなかったのに、そんな僕のネタでも見たいって言ってくれる人が、60~70人も来てくれたのは本当にうれしかったです。まだまだ自分が土壇場なのは変わらないですけど、やり続けてよかったなって思える状態にはなってきましたね」 さらに、麒麟がコンビで開催している、『ふたりっきりん』も発案者は田村。しかし、そこでもまだまだ埋まらないコンビ格差を実感することになる。 「この前、開催したとき、僕は終演後の楽屋挨拶はイヤだったんで“断ってくれ”と言ったんです。そこでも格差を見せつけられることになるから。でも、マネージャーからしたら、川島の関係者は入れて、僕の関係者は入れないって失礼だと思ったんでしょうね。キラキラしてる川島の関係者を見せつけられました(笑)」 果たして、今年7月に発売された『新装版 ホームレス中学生』で格差は縮まるのか? それでも最後には、土壇場をともに乗り越えてきた相方への感謝を語った。 「相方はずっと僕のことを尊重してくれているんです。世の中に僕のバスケットボール好きが印象ついたのも、川島がテレビで“相方、何してんの?”って聞かれたら、“今、バスケしてます”と言ってくれたからなんで。感謝しかないんです」 (取材:梅山 織愛)
NewsCrunch編集部