「あなたが助ければ?」貯金ゼロ、年金は"施設費"で消える義実家…生活保護担当者の捨て台詞に長男嫁の胸の内
■生活保護利用率は日本1.62%、ドイツ9.7%、イギリス9.3% 古道さんの父親は現在82歳。リハビリの甲斐あって、短時間なら歩けるようにはなったが、左手が開かなくなっているほか、右手は上がらなくなっており、入浴は週2回のデイサービス。着替えは前開きの服しか着ることができない。 古道さんの母親は現在81歳で、古道さんの弟(53歳・独身)と2人暮らし。ペースメーカーを入れているものの、自転車にも乗れるし、家事も問題なくできている。弟が同居しており、性格的にもしっかりしているため、母親のことは心配していない。 「今後もしも父の介護度が上がったら、私は実家に帰って父と暮らそうと考えています。健康な義父に、夫と私の2人もつかなくてもいいと思うからです」 そうなれば、古道さん夫婦は別居状態になる。古道さんはこう話す。 「終わりが見えない親の介護に対し、子どもたちは労力を奪われるだけでなく、経済的な不安や罪悪感まで植え付けられてしまい、ひどくなれば夫婦間の亀裂まで生み出してしまう可能性もあります。そうならないためには、親のためにも自分のためにも、お金の問題は親が元気なうちに話し合っておくべきだと思います。そしていざ介護が始まっても頑張りすぎず、『疲れたら途中で投げ出せばいいや』というぐらいの気持ちでいたほうがいいかもしれません」 これまで筆者は100人近くの介護者を取材し、多くの介護離職や介護転職、老後破綻などを見てきたが、介護を家族が担わなければならない現状を変えなければ、日本の経済は好転しないのではないかと考える。 高齢者たちは、老後が不安だからお金を溜め込み、経済を回さない。ならば、老後に不安を感じなくなれば、死ぬ直前まで経済活動をし続けるのではないか。 古道さんはこう続ける。 「高齢者の長寿化の問題は今後さらに深刻化すると思いますが、個人的な思いとしては、介護にやりがいなどなく、本当に心の底からウンザリしています。早く終わってほしいという気持ちは多くの人が共感するものだと思うので、介護をしている皆さんには自分だけが負の感情を持っているなどと罪悪感を持たないでほしいと思います」 厚生労働省によると、日本の生活保護利用率は、2023年1月分の概数で、人口の1.62%。これはドイツ9.7%、イギリス9.3%などと比べると極めて低い。 親のために自分たちの老後の貯蓄を使い潰すのは、本末転倒だ。生活保護の利用を、恥だとかかわいそうだとかと感じることは全くない。長年にわたり納税してきた国民であれば、当然の権利だと思うべきだ。 生活保護が老後の安心材料となるなら、高齢者たちは死ぬまで経済を回せるようになるのではないだろうか。 ---------- 旦木 瑞穂(たんぎ・みずほ) ノンフィクションライター・グラフィックデザイナー 愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。2023年12月に『毒母は連鎖する~子どもを「所有物扱い」する母親たち~』(光文社新書)刊行。 ----------
ノンフィクションライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂