AIは「汎用技術」になりうるのか 大きなAIと小さなAIの考え方 長谷佳明
現在の「プロンプトエンジニアリング」のような推論の効率を上げる前処理は小さなAIが代行するため不要となり、生成AIは格段に使いやすくなる。いったんは大規模モデルと小規模モデルとして別の進化の道を進むことになったモデルは、大きなAIと小さなAIに分化し、再び相まみえて互いに補完する関係になるだろう。 ◇アップルインテリジェンス アップルは24年9月、生成AIサービス「アップルインテリジェンス」に対応したスマートフォン「iPhone16」を発表した。このアップルインテリジェンスは、まさに大きなAIと小さなAIの組み合わせの好例である。スマートフォンに組み込まれた小規模モデルと、アップルの専用サーバーで稼働する大規模モデルか、もしくはオープンAIの開発する大規模モデルとが、用途に合わせて連携して回答する仕組みになっている。 アップルが考えるAIの未来は、24年6月に公開された同社の論文「ReALM: Reference Resolution As Language Modeling」にも垣間見える。スマートフォンなどの画面からユーザーの状況を理解することに特化した小規模モデルは、ユーザーの意図を察することに特化する。一方で、より高性能なモデルの推論を活用する際には、おそらくは個人情報のような機微な情報はマスキングするなどして橋渡しをする。また、モデルは小型であると学習が容易で、使えば使うほどユーザーを先読みして利便性を向上すると予想される。 ◇知力のベストミックスの時代へ AIが汎用技術を目指す時、大きな問題として浮上するのは、大きなAIを誰が維持管理するのかである。高い推論能力を持つ知のインフラは、サービス停止時の社会的影響が大きい。たとえば、同じく汎用技術である電力は、火力、水力、原子力に加えて太陽光や風力があるように、さまざまな電源をミックスして安定供給を実現している。 AIが提供する知力も、汎用技術化を見据えた場合、過度の海外依存や一部の企業による市場の独占はリスクとなる。このため、政府には、マルチベンダーによる性能や性質、コストの異なるサービスを組み合わせた「知力のベストミックス」の構築を誘導していくことが求められるだろう。
(長谷佳明氏・野村総合研究所エキスパートストラテジスト)