クリープハイプ・尾崎世界観インタビュー「ミュージシャンだからこそ奇跡の起こらなさを書きたかった」
文学界では本業を持つアーティストたちの活躍が目覚ましい。音楽や演技、芸術での表現方法を持つ彼らが筆をとるとき、そこに本質が現れるのではないだろうか。そんな本業を持ちながらも文筆業で表現をすることを選んだ3人のアーティストたちに話を聞いた。二人目はロックバンド「クリープハイプ」のヴォーカル・ギターの尾崎世界観にインタビュー。 【写真】クリープハイプ・尾崎世界観の撮り下ろしカット ──『転の声』の主人公であるロックバンドのボーカリスト、以内右手は尾崎さんと重なる部分がありますが、実体験はどれくらい反映されていますか。 「登場人物が尾崎世界観であっても、そうでなくても、もうそれが関係ないくらい面白いものを書こうと思いました。なので自分のことを書こうと思ったわけではなく、音楽業界の人しか知らないことを書いていくうちに、自分が出てしまったという感じです。なるべく自分から離して書きたかったのですが、やっぱり難しいですね。書きながら、情報を通して自分が漏れていくような感覚がありました。ただ、これまでは自分のことを含め、小さな半径の物語を書いてきたけれど、今回はそれとは違う大きなスケールで書けたのがよかったです」 ──ミュージシャンがチケットの転売やフェスでの動員をどう意識しているかがとてもリアルに描かれています。 「ミュージシャンは普段、自分の体験をそこまで明確に形にする必要がないので、いざ書こうとしてもなかなか言葉にならない。自分がいかに何となくで言葉を使ってきたかということに、小説を書いて気づきました。昼間に野外フェスのステージに立つと、お客さんが入っていないスペースが目に入りやすいんです。 デビュー当時は、小さいステージをどれだけお客さんであふれさせるか、そればかり気にしていました。メインステージはそういった小さいステージとは違い、人があふれるということがないので、お客さんを集めるのではなく、いかにそこにとどまらせるかという戦いになる。その難しさは大きな壁でした。そういった記憶をたどりながら書いていきましたね」