米国で多くの小規模私大が苦境、貴重な資産を売却-出生率低下響く
(ブルームバーグ): 米シアトルにある私立大学、コーニッシュ芸術大学で、「ケリー・ホール」は最も重要な建物だ。
赤レンガの屋根と白いしっくいの外壁を持つ同ホールは、ダンススタジオやパフォーマンス会場、教室を備える。また、近隣の活気あふれるシアトルのキャピトル・ヒル地区には、エスプレッソバーや、和牛やビーガン・パンケーキを提供する流行のスポットがある。
そのため、4月に大学当局がケリー・ホールに売り出し中の看板を掲げた時、騒動が起きた。2021年入学のフェイス・バンチュさんを含む学生、教員、卒業生らが同ホールを取り囲んで抗議した。「皆がパニック状態だった。ただただ悲しい」とバンチュさんは話す。
これは、米国の多くの小規模私立大学が直面している新たな厳しい現実でもある。
米国の出生率低下で大学進学希望者が減少しているため、各校は定員を埋め、諸経費を賄うのに苦労している。米学生情報研究センター(NSC)の暫定データによると、今秋の米大学の新入生数は5%減少と、2020年以来の落ち込みとなった。
この苦境に直面し、各校は集合住宅や学長用の邸宅、場合によっては絵画などの貴重な資産の売却を急いでいる。大学の閉鎖や大学債のデフォルト(債務不履行)はここ数年で急増している。
コーニッシュ芸大のエミリー・パークハースト暫定学長は、「多くの小規模大学と同様、われわれに不動産は豊富にあるが、手元資金は乏しい」と語る。今学期に同大に在籍する学生数は488人と、10年前の約800人から減少している。
ただ、誤解のないように言うと、より規模が大きい米国の多くの名門私大および州立大学の運営は好調だ。これらの大学は豊富な寄付金と安定的な入学者数を誇り、財政的に成功している。しかし、より視野を広げると、コーニッシュ芸大のような比較的知名度の低い大学は厳しい状況にあり、時には痛みを伴う、議論を引き起こす決断を余儀なくされていることが示されている。